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【赤ずきん】と森の迷路とスノードームからの脱出

▽▲▽▲▽▲ 両脇にタンポポの花が咲き乱れる小道を、ひたすらまっすぐに歩いて行くと―――ふと、今まで頭の片隅に無意識のうちにし舞い込んでしまっていた《以前の世界にいた頃の、とある廃遊園地での記憶の中》で唐突に思い出した懐かしい光景が目の前に広がってくる。 それは、自らの足で進んで行くのではなくて切り株を模した小型の乗り物に客が乗り込んで人形が愉快げに踊る迷路のように広い森の中を進んで行くアトラクションだったのだ。 その中に出てくる、あるシーンが――幼い頃に想太と共に遊びにきた僕の心にグッと染み込んだというのに――何故、今まで忘れてしまっていたのだろうか? 僕の右側に映るのは、この世界に引きずり込まれてしまった時に最初に出会った真っ黒な女の人の姿。 僕の左側に映るのは赤いチュチュのような衣装を着て顔にポッカリと真っ黒な穴があいている【看板娘の赤ずきん人形】が女の人に向けて両手を差し出しながら《何か》を受け取ろうとする姿。 (おそらく――僕の考えはこれで間違っていないはず―――お願いだっ……) ぎゅうっと【本物の赤頭巾】を握り締めると、そのまま僕は真っ黒な女の人の手に―――それをソッと乗せた。 (彼女が――赤ずきん人形の母親なら、誰かの手ではなく自分の手で真実の愛が込められた赤頭巾を渡したい筈――彼女の安全のためにも……っ……) ―――ギッ ―――ギイッ、ギッ―― と、僕が心の中でそんな事を考えていると暫くした後で軋む音をさせながら、ぎこちなく動き始めて【真っ黒な女の人】が、ゆっくりとした動作で【赤ずきん人形】に《本物の赤頭巾》を被せたのだ。 すると【赤ずきん人形】と【真っ黒な女の人】に徐々に変化が現れ始める。【赤ずきん人形】は顔全体を覆っていた真っ黒な穴が消え去り、本来の可愛らしい少女の顔を取り戻す。【真っ黒な女の人】は娘である彼女の様子を見て―――穏やかな女神のような美しい母親の姿を取り戻したのだ。 そして、二人は本来いるべき筈の【アトラクション脇にひっそりと置かれていた案内看板の中】へと母子共々、吸い込まれるように自然と消え去っていくのだった。 そして、僕は―――【出口】と赤いペンキで大きく書かれた丸い木の扉へと進んで行くのだ。 いつのまにか、幼い頃ではなく本来の姿を取り戻していた愛しい誠と手を固く繋ぎながら―――。

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