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石の沼と【コカトリス】⑦

ライムスが身動きとれなくなり不安さで顔が真っ青になっていた引田が慌ててライムスへと駆け寄り、救出できた事に対して安堵した僕は―――【コカトリス】が何故、急に目線を他の方向へ向けたのかがどうしても気になり、未だに僕らの方ではなく【ハーピー達がとまっている大樹】そびえ立つ方向へと目線をチラッと向けてみた。 チョロ…… チョロ、チョロッ…… まるで【コカトリス】の気を引くように―――小さな生き物が大樹の側をウロチョロと駆け回っている。 ―――その生き物は、ダイイチキュウでいうところのトカゲに姿形がよく似ている。しかし、その血のように真っ赤な体の色はダイイチキュウにあった図鑑でさえ見た事がない。しかも、ダイイチキュウの図鑑で見たトカゲとは違って鱗はなく、代わりに黒炎を身に纏っているのだ。 「い、痛いっ…………これ、さっきと数字が――変わってる!?」 思わず声に出さずにはいられない程の鋭い痛みが僕の手の甲に走り―――慌てて先程、《3》と文字が浮かんでいた手の甲の方へと目線を移してみる。すると、未だに僕の手の甲にフワフワ浮かんでいる《2》という歪んだ数字が見えた。 ―――先程とは違って黒色の《3》という数字から血文字のように、じわりと歪んだ《2》という数字へと変化している事に気付いた僕は、その理由を考えてみる事にした。 『優太、物事には必ず理由があるんだ……だからこそ、考えるんだ……なぜ、そうなったかって事をね。考える事を止めたら、その時点で負けたも同然だよ……っ……』 その時、僕らの助けを何処かで待っている―――片割れの想太の声が聞こえてきた――ような気がした。 あの赤いトカゲが、ああして【コカトリス】の気を引いてくれている理由―――。 (それは気を引いている間に【コカトリス】を攻撃しろ、と示してくれているからだ) 僕の手の甲に《3》と《2》という文字が浮かんでいる理由―――。 (それはミストが託してくれた魔法には回数制限があるから早く【コカトリス】を倒せ、という沼に沈む彼からの精一杯のメッセージだからだ) ミストが僕へ謎の魔法を託した理由―――。 (それは僕なら必ずコカトリスを倒せる、とミストが心から信頼してくれているからだ) じんわり、と心の中が温かくなり再びミストが僕だけに託してくれた魔法を唱えるため、杖を持つ手にギュウッと力が入る。 そして、未だに小さな赤いトカゲのような生き物に気を取られている【コカトリス】へ気付かれないように慎重に杖先を向けるのだった。

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