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一行に襲いかかるは――大海蛇⑨

(だ、大丈夫……大丈夫だよ……この最高級に気持ち悪いコイツを掴んで振り上げればいいだけなんだから……それさえ我慢すれば……後は大ガエルがこっちにくる筈なんだから……っ…………) この期に及んで大ガエルを此方まで誘導するために、キィーナ虫の幼虫を利用しようと言霊魔法で召喚させた事を若干後悔しはじめ心の中で葛藤する引田だったが勇気を振り絞り、地面でウゴウゴと蠢きながら身を捩っているソレへと目線を落とす。 「ギィィィーニャァァッ……キィィィ~……ニャァァッ……グギィィィッ、ニャァァァッ………」 元々は以津真天の死骸だったソレは完全にキィーナ虫の幼虫と化して独特な鳴き声を発している。まるで、ダイイチキュウにいた頃に聞き慣れていた猫の鳴き声のようだが―――明らかに声質が違う。 ふっ、と仲間達へと目線を移してみた引田は目を輝かせながらキィーナ虫の幼虫をジッと見つめているミストに気付いた。 「…………か、かわいい!!」 「えっ……ええっ…………!?」 ミストは俗に言うゲテモノが好きなのだろうか。まるで、可愛いかどうか微妙なものを何でも見境なしに可愛いというダイイチキュウに暮らす一部の女子達(主にクラスメイトだった)のようなキラキラとした目をキィーナ虫の幼虫へと向け続けるのだ。 (ど、どうしよう……ミストはコイツが好きみたいだし……彼に頼もうか―――いや、でも……っ……) 引田の心の中で悪魔がチラリと顔を覗かせ、未だに葛藤している彼に甘い言葉で囁きかけてくる。 【ミストに任せちゃえばいいよ、どうせ彼はキィーナ虫が大好きなんだからさ。仲間なんて都合のいい時に利用するためにいる存在でしょ?ねえ、弱い弱いぼく?】 元々精神的に強い方ではない彼の弱い部分―――悪魔が誘惑する。 これまでも、何度も彼にまとわりついてきた悪魔が甘い言葉で囁きかける。それのせいで、引田はダイイチキュウの学校に通うことから逃げ続け、挙げ句の果てに家から満足に出る事さえ―――出来なくなってしまったのだ。 ドクン、ドクンと早鐘のように鳴り響く心臓の音を聞きながら引田はゆっくりと仲間達の顔を見つめる。 そして―――、 ニチョッ、グチョッ――― 心から嫌そうな顔をして必死で目を背けながらも―――引田は大の苦手であるキィーナ虫の幼虫から逃げる事はせず誰にも頼る事なく己の手で最高級に気持ちの悪い粘着質なソレを掴むのだった。

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