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一行に襲いかかるは――大海蛇⑩

キィーナ虫の全身を覆う緑色の粘液が手にくっついて気色悪い、と引田は思ったが嫌悪感をなんとか我慢しながら、大ガエルが此方に気付くように―――僅かばかり大袈裟に腕を左右に振り上げる。 ―――すると、 《チャームの言霊魔法》が発動したからなのか、引田達一行がいる辺りに甘い香りを漂わせながらキィーナ虫の幼虫の体から―――淡いピンク色の綿飴のような煙がモクモクとあがり始める。 それを合図にするかのように、今まで沼にいる以津真天の死骸にしか興味がなかったかのような大ガエルが此方に一気に突進してきた。器用に沼の水の上を跳びはねつつ、無数に浮かぶ以津真天の死骸を避けながら―――ただ、ただ一心不乱にキィーナ虫の幼虫を手に持った引田の方へと進んでくる―――のだが、 【いつま……で~………いつまで~……い、つまで~…………】 全て引田達一行の思い通りにいっている―――と、心の中でガッツポーズをして僅かに油断しかけていた時の事だった。 未だに沼に浮かぶ以津真天の死骸だった存在が―――急に意思を持ち、生き返ったかのように沼から飛び出し上空へと舞い上がる。 ―――体自体は本来の姿の時と同じく小さいものの、以津真天の姿だった時とは決定的に違う部分がある。 ―――それは、背中から生えている銀色に光り輝く翼だ。 「―――ワ、ワイバーン?そんな……どうして……以津真天の死骸が……ワイバーンに!?それも、こんなにたくさん……っ……」 「おい、アイツらーーー大ガエルを沼に引きずりこむつもりだぞっ……とりあえず弓矢で攻撃してみるが……正直、キリがないーーーやはり、大元であるシーサーペントをどうにかしないと……厳しいのかもしれない!!」 あまりにも予想外の出来事に、引田は非常事態にも関わらず、ため息をつくのだった。 また、新たな策を考えなくては―――。 石にされてしまった哀れな少年のためにも、仲間である優太と木下誠のためにも―――。

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