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部屋の中に散らばるは――色褪せつつある玩具たち①
「それにしても、ここって何処なの?こんな所―――ミラージュじゃ見たことないよ……それに、ヒキタ達は……何処に!?」
怪訝そうな表情を浮かべつつ、思わず目を瞑ってしまいそうになるくらいに眩しい夕焼けの光に包まれた部屋の中をキョロキョロと見渡しながら―――ミストが不安げに僕と誠に尋ねてきた。
「ここは、あえて言葉にするならば――ダイイチキュウの《今は人々から忘れ去られつつある色褪せた世界》の―――誰かの部屋の中だ」
「そうか、だから……この部屋の畳の上に……こんなに懐かしの玩具があるんだ……っ……て……これ、引田にどことなく似てない?」
―――畳の上に、ばらばらに散らばっている物たち。
―――かつては子供達を魅了し、わくわくさせた物たち。
―――可愛い女の子が描かれた塗り絵、クレヨン。
―――宝石のようにキラキラしたおはじきや、ビー玉。
―――折り紙、お手玉、万華鏡――。
ゲームなどが子供達の遊びの基準になりつつある今のダイイチキュウでは……ほとんど色褪せてしまっている……昔の玩具たちが、い草の薫る畳の上に乱雑に散らばる中、僕は―――とある、塗り絵を拾いあげる。
「ひ、引田……な、何でこんな所に……っ……」
僕が拾いあげた塗り絵は―――2、3人の女の子と共に《花いちもんめ》という昔の遊びをしている場面のもので、その中で引田によく似た女の子がいる事に気付いた僕は呆気にとらわれてしまいながらも―――ポツリ、と呟いてしまったのだ。
それを彼だと本能的に察したのかは自分でもはっきりとは断言出来ない定かではないものの―――おそらくその引田によく似た女の子の容姿だけでなく、彼女達の中で一人だけが……不安げな表情を浮かべているという事に違和感を抱いたからなのかもしれない。
【カーッテ、 ウレシイ 、 ハナイチモンメ 】
【マケーテ 、クヤシイ 、 ハナイチモンメ】
【アノコジャ 、ワカラン 、コノコジャ 、ワカラン 】
【ソウダンシマショ 、 ソウシマショ 】
引田によく似た女の子以外は楽しげに手を繋ぎながら笑っている女の子達の描かれた塗り絵の上部には全て片仮名で【花いちもんめ】の歌詞が書かれている。
その事に何故かとてつもなく不気味さを感じてしまった僕は―――塗り絵の中に閉じ込められてしまった引田を急いで救うために慌てて辺りを見渡しながら何かヒントになりそうなものを探してみる。
何故、やっと塗り絵の中に描かれた女の子が引田だと確信したのか―――。
それは、不安げに此方へと救いを求めるような表情を女の子がしていることと、容姿が引田に似ているという点だけではない。
彼女の右手の甲に―――下手したら気付かない程の小さな文字で、こう書かれている事に気付いたからだ。
《タスケテ、ユウタクン、キノシタマコト》と―――。
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