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マネマネさんの正体②

「で、でもさ―――コイツの正体が下級召喚魔物のインプだって分かっただけでも良かったよ……コイツなんてミストの魔法で簡単に倒せるんだからっ……て、あれ……っ……?」 ミストは《優太の声と姿を真似ていたモノ》の正体がインプだと分かった途端に安堵しきっていた。そして、正直―――油断していた。 何故なら、インプ自体は魔法で簡単に倒せる存在だからだ。力もそれほどなく、知性も余りない。インプを召喚した魔術師ならばいざ知らず―――インプ単体だけであれば、確かに魔法を使えば容易に倒せる筈なのだ。 ―――しかし、 「こ、これっ……ミストの杖……じゃない!?何……これ……っ…………!?」 「……そ、それは……鉛筆じゃないか……何故、ミストの杖が……鉛筆に……変化しているんだ?」 ―――杖の持ち主であるミストだけでなく、隣にいる誠でさえ呆然としながら芯の先が針みたいに尖った鉛筆へと変化した杖を見つめることしか出来なかった。 【くっ…………くくくっ……この世界に魔法なんていうモノが存在するかっ………ここは、華やかさと豊かさを失ったダイイチキュウだ……美しいあの方がそう仰っていたからな……そんな世界に魔法なんていう言葉自体存在しねえんだよ……】 「―――――しろ、早く……」 インプが勝ち誇ったようにそう言い放つのと、誠がある言葉をミストに向かって囁きかけるのとは―――ほぼ同時だった。 ―――ビュッ……… その誠の囁きを聞いて、ミストは一瞬だけ躊躇したが、大切な仲間達を救うためならば仕方がないと思い直し―――鉛筆へと変化した元々は自分のモノだった杖をインプの醜悪な目玉に向かって勢いよく投げ付ける。 【ギ、ギャァァァァ……い、いてぇ……ちくしょう……ちくしょう……せっかく……あの美しいお方に認めてもらえるチャンスだったのに……申し訳ありません……ア……ラ……ク……ッ……………】 ブチッ……… ―――ガシャァァァンッ…… インプが言う【美しいあの方】の名前をミストと誠が聞き終える前に―――急に何かが切れるような音が部屋に響き、その後に天井から吊るされた割りと大きめの電灯がその真下にいたインプを潰すように落ちてきた。 すると―――、 両脇にある窓が開き、部屋の中に風が吹き込んできた。 外で楽しそうに遊んでいるであろう複数の子供達の笑い声もミストと誠の耳ち微かに聞こえてくる。 パラッ パラ……パラッ………パラ…… 風が吹き込んできたせいで、床に散らばっている絵のかかれた画用紙がバラパラと捲れた。そして、とあるページにさしかかった途端に唐突に捲れていた動きがピタリと止まる。 【あたし、キレイ?うふふ、これもかつてダイイチキュウで流行ったモノなのよ~……まあ、あなた達が分かるかどうかは知らないけれどね~……ちょっと、あたし流にアレンジしちゃったし……にしても、インプのヤツ……あたしに認められたかったなんて図々しいヤツね!!】 【あら~……まだまだお仲間は助けられていないのね。せっかくインプを始末してやったんだから、早くあたしの所まで来なさいよ!!そうじゃないと、つまらないじゃないの……愛しのリッくんも、あなた達を待ってあげてるんだから……ソレじゃあ、頑張ってお仲間を助けてあげなさい……じゃあね~……また、後で♪】 ―――その画用紙には、口が両耳の脇まで裂けている不気味な人間の女の絵がかかれている。しかし、子供が描いたような出来なので……余り怖くはない。 しかも、不思議な事にその不気味な人間の女の絵の下には【あらくね】と下手くそな字で書かれていたのだった。

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