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ようこそ、【空中都・ 青春区・ 空海】へ①
※ ※ ※ ※
その後、僕は―――半ば強引に男へある場所へ連れて来られて相変わらずびくびくと怯えきっていた。
目線だけで、チラッ……と周りの様子を確認してみると四方八方が茶色のレンガ造りの壁に囲まれている。しかし、レンガだらけの殺風景で無機質な場所かと言われれば――それは違う。
その場所には―――【水】が溢れんばかりに涌き出ているのだ。レンガ造りの壁にはひび割れている箇所が多い。そこから、【水】が滝のように溢れ出している。
しかし、出入りするような所は僕が男に連れて来られた小さな扉くらいしかないというのに――こんなにも何ヵ所もあるひび割れた壁の隙間から【水】がそれなりの勢いで溢れ出しているにも関わらずここの場所は沈む気配すらない。
―――ぱしゃんっ…………
と、ふいに何かが跳ねたような音が上の方から聞こえて―――僕は思わず天井に目を向けてしまう。先程から、男は僕に危害を加えようともせずにジッとその場に佇んでいる。あれほど僕の首筋に刃物の切っ先を突き付けてきたり脅してきたりと好き勝手していたのに―――。
ホッと安堵したと同時に急に男の僕に対する態度が変わった事に不安感と言いようのない違和感を覚えつつも―――僕は四角い天井に広がる美しい光景にハッと息を飲んでしまう。
その立体的に見える天井の中には―――波間に揺れる海の光景が広がっている。かつて想太と眺めていた絵本の中に存在するような人魚や骨しかないボーンフィッシュなどが―――天井の海の中を波間に揺られながら優雅に泳いでいる。まるで、目の前に迫ってきそうな程に迫力のある光景で今にも笑顔を浮かべながら此方に手を振ってくる人魚達に手が届きそうだ。
―――先程の音の正体は、人魚が尾ひれを動かしたものだったらしい。
(す、すごい……っ……こんな光景―――夢の中でも見た事ないよっ……想太にも……見せてあげたい……っ……)
既に、僕の頭の中で―――ついさっきまで男に襲われかけていた事など消え去ってしまっていた。
しかし、唐突に異変が訪れる―――。
今まで微動だにしなかった男が再び僕の体を強引に引き寄せてきてズボンの中に仕舞っていた羊皮紙を半ば強引に僕から取り上げてナニカに憑かれたかのように無我夢中で羊皮紙をガン見するのだった。
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