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ようこそ、【空中都・青春区・空海】へ⑦

「―――そんな事は関係ない。キーデンクラーゲの脅威よりも……そこの娘っ子を救い、再び他の人間共と一緒にダイイチキュウへ送り届けることの方が重要だ……と顔にはっきりと書いておるぞ?」 「……っ…………!?」 思わず、顔を真っ赤に染めながら両手で覆ってしまった。このドクターCとやらに隠し事をするのは、たとえ天地がひっくり返ったとしても無理そうだ―――と僕は思った。 「ふむ…………お主の娘っ子を救いたいという気持ちは十分に伝わった―――【空中都・青春区・空海】という広大な世界を嫌というほどに堪能し……娘っ子を救うがよい。わいは、ここでお主の動向見ておる。むろん、キーデンクラーゲがこの世界に寄り付かないように見張りもしておるゆえに……さあ、左手をその球体へ触れて【そこうよ、とかならそ ・ くるはおあ・みうらそ へ】と唱えてみるがよい」 「……え……っ…………!?」 頭の中が混乱してしまう。 ドクターCが唱えてみろといった言葉はミストが攻撃を仕掛ける時に発する詠唱のようなミラージュ独特のものではなくダイイチキュウでも日常的に使われていた言葉の筈なのに混乱してしまっているのは僕の記憶力が悪いせいだろう。 「やれやれ、仕方がないの……随分と手間のかかる坊主じゃ……ほれ、この白い箱の中を見てみろ。どうやら、わいが保護した可愛子ちゃんもお主を気にいったらしい……必死で手助けしようとしておる……元ハーピーとは思えぬ可愛さじゃろう?」 「ハ、ハーピーって……?まさか、キミは―――僕らと戦った……あのハーピーなの!?」 ドクターCが【空中都・青春区・空海】へと行く為の手段を覚えきれず苦戦している僕を呆れたように見つめてくる。このドクターCは優しそうな見た目によらず、なかなか意地悪らしい。先程の長ったらしい言葉をもう一度教えてくれればいいのに―――何故か、それをしようとしてくれない。まあ、記憶力が悪い僕に問題があるのだからそれについてドクターCを責めるのはお門違いというものだろう。 それに、長ったらしい呪文のような言葉を教えてくれない代わりにドクターCはすぐ近くにある四角い白い箱をコツン、コツンと何度か軽く叩いた。 そこには、一羽の鳥がいる。ただし、ごく一般的にダイイチキュウのペットショップなどで売られている鳥に備わっている目というものがなく―――まるで作り物のようだ。けれど、小さいながらも嘴はあるようで―――先程から白い箱に置かれている金色の糸を熱心に嘴で咥えて何かしているようだ。おそらく、遊んでいるのだろう。 だが、極彩色の羽は―――美しく、ドクターCが言うことに嘘偽りがないとしてこの目の前にいる鳥がかつてハーピーだったのならば以前と変わらない虹色の羽が驚きにキョロキョロと揺れ動く僕の目に飛び込んでくる。 『ここは失夢園―――夢、希望、そして魂を失ったモノたちを保護・研究する場所だ』 先程のドクターCの言葉が、ふっ…………と頭の中に浮かんできた。すると、ハーピーも僕らに倒された後で美々さんのように【虚無の大海】をさ迷い続け、このドクターCに保護されたのかと不安と罪悪感とが入り交じったモヤモヤした複雑な気持ちに捕らわれてしまっている時―――、 【そこうよ、とかならそ ・ くるはおあ・みうらそ へ】 白い四角い箱の中に捕らわれている元ハーピーが嘴に咥えている金糸を床へと置いていく。そして、徐々にだが―――かつてはミラージュの魔物として存在していた彼女には知り得ない筈のダイイチキュウの平仮名を金糸で作っていき記憶力が良いとは決して言えない僕に【空中都・青春区・空海】へと行く為の道標を与えてくれるのだった。

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