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ようこそ、【空中都・青春区・空海】へ⑧

【そこうよ、とかならそ ・ くるはおあ・みうらそ へ】 人魚と化してしまい、ドクターCによって保護されていた美々が漂う水色の容器へと左手を伸ばし、心の中で強く彼女を救いたいと願う僕は―――かつて、ダイイチキュウという世界からこのミラージュへと飛ばされてきた過去の光景を思い出した。 あの頃も、今と同じように鏡に左手を触れて、大切な人を救いたいと心の中で強く願った。そして、それは叶った。たとえ、知花という僕の友達だった存在が仕向けた事とはいえ―――確かに大切な人を救うために別の世界に行くという願いは叶ったのだ。 (だから……今だって―――美々さんを救うためにこの中に存在している世界に行くことは不可能ではないはず……っ……どうか、僕に美々さんを救うためのチャンスをください……っ……) しぃん…………っ…… 辺りが沈黙に包まれる―――。 あれだけ心の中で強く願ったにも関わらず―――水色の容器に異変は見られない。ガックリと肩を下ろしていた僕の肩にドクターCの手が乗ったかと思うと―――、 「…………」 彼が無言で微笑みかけてきたのを最後に―――僕の体は水色の容器の中からフワリ、フワリと出て来て空中を漂う透明で大きな膜に覆われていき、人間の姿ではなくなってしまっている哀れな少女―――美々が待つ【空中都・青春区・空海】へと透明な膜ごと吸い込まれていってしまうのだった。 【しゃーぼんだま……き、えた……と、ばずに……きえ、た……】 今までいたドクターCの研究所の景色が徐々にぐにゃり、ぐにゃりと歪んでいき、困惑している僕の耳に聞こえてきたのは―――少女の儚く消え去りそうながらも美しい天使のような歌声だった。

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