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人魚姫①
【さあ―――こっちの準備は万端よ……っ……そろそろ彼女が生ぬるい眠りから覚める時よ……これでいのよね、リッくん!?】
【ああ、上出来さ……アラクネちゃん。やっぱりタランチュラ……おっと、ついうっかり口が滑ったね。とにかく、アラクネちゃんの持つ毒は素晴らしい!!】
泡のような膜に全身を覆われ、眠りにつく人魚姫と化してしまった美々へと細長い八本の足先から液体状のもの(毒らしい)を注入し終えたばかりのアラクネが声を弾ませながら嬉々として己の主人である【金野 力】へと言う。アラクネの姿も変化しており、元々はニンゲンの女性の頭部と上半身で下半身は蜘蛛という奇怪な姿から今はアロークラブというダイイチキュウに存在している蜘蛛によく似たカニの姿となっているのだ。
テレビか何かでアロークラブというカニの姿を見た時は、世の中にはこんなに不思議な姿をしている生き物もいるのだなと感心していたが――まさか、こんな形で目にする事となるとは思わなかった。
「な、何で……っ……僕らは、ともかくとして……どうして単なるダイイチキュウに暮らしていただけの美々さん達を……こんな酷い事に巻き込むの!?」
【今までダイイチキュウという汚らしい世界で生きていて、生ぬるい生活を謳歌してきたこの少女にちょっぴり刺激を与えてあげる事の何がいけないんだい?彼女は、まだ学生で――社会というものの厳しさだって分かってない…まあ、それはともかく何よりも少女の魂というものは美味しいからね__負の感情によって汚染されたばかりの少女の魂は特に美味しいし俺とアラクネちゃんの力の源にもなるのさ】
透明な魚は嬉々として語る__。
蜘蛛にそっくりなカニは嬉々として細長い足を特定のリズムに沿って動かし喜ぶ__。
そして、透明な魚が口を細くすぼめ空気を吸い___ぶうぅっと勢いよく泡を吹き出すと、そのまま奴らの姿が跡形もなく消え去ってしまう。
【さてさて……気まぐれ王子様の友である優太くん__今はオトモダチがいないひとりぼっちの優太くん……残念ながら君にも俺とアラクネちゃんの餌となってもらうよ?君のオトモダチで王子でもあるチカ様からのご命令だ__それはつまりチカ様は俺を認めてくれたということ……これ以上俺が強くなるのを見込んでくれたということさ……】
【金野 力】の人を小馬鹿にしているような不快な声しか聞こえないものの__僕は首を横に振りながら必死でその言葉を否定する。
チカが僕らを裏切る訳がない___。
ましてや【金野 力】という卑怯者で最低な奴を認める訳がない___。
今更とはいえ僕は、かつてダイイチキュウにて友達であった知花を心から疑う事は出来ないのだった。
いや___もしかしたら知花を完全に裏切り者だと認めてしまうのが怖いだけなのかもしれない。
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