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人魚姫④

【あははっ……見てよ、誠___優太くんったら仲間であるボクらが救いに来たからって鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてるよ!?】 【優太……愛しい優太__俺らはお前を救いに来たんだ……】 声も、姿さえも___全部が僕の大好きな仲間である誠と引田そのものだ。それなのに、彼らが驚きを露にしている僕へとすいっと近付いて手を指し延べた途端に言い様のない不安に囚われて一歩引き下がってしまった。 【人魚姫】は濁りきった灰色の瞳で僕を睨み付けたまま__黒くて分厚い膜に覆われ、まるで母の腹の中にいる胎児のように身を委ねている。 「う、嘘だ……嘘だよ……っ……君たちは偽物だ……優しくて仲間思いな誠や引田が二人だけで僕を救おうとする訳がない……ミストやサン__それにライムスは何処にいるの?いないじゃないか……それに、それに……ナギや想太や……知花だっていないじゃないか……」 僕の中の【不安】が一気に爆発する___。 今まで必死に抑えつけていた【不安】__。 もしかしたら、このままいつまで経っても仲間を救う事が出来ないのではないか、という漠然な【不安】に火がついてしまった僕は偽物だと分かりながら目の前に立ち塞がる【誠と引田】へと叫ぶ。 すると―――、 【大丈夫、大丈夫だよ……優太くん__サンもミストもライムスも……みんなここにいる。優太くんが仲間になるのを……みんな望んでる……だから不安なんて捨てて、難しい事なんて考えずにボクらの抱擁に身を委ねて___ここは海なんだから……波間に揺られながらひたすら身を委ねて……そうだよね、誠___?】 【ああ……引田の言うとおりだ……優太___何も考えず……心をカラッポにして身を委ねて……俺らの抱擁を受け入れろ……っ……さあ、愛しい優太___】 その心地よい仲間たちの声を聞いた僕は言われるがままに頭をカラッポにして___彼らの抱擁を受け入れるために平泳ぎしながら進んで行こうとする。 「このバカ……ッ……何を血迷ってんだ!?お前__あの美々の様子が見えてねえのか……このバカ野郎……!?」 その声を聞いて、ハッと我にかえった。 声のした方向へ目線を向けると__真下の灰色の排気ガスで覆われた汚濁しきった【空】の世界から必死で僕へと訴えかけてくるウサギの縫いぐるみが漂っている。 いつの間にか、この異様な【空】と【海】の世界に迷い込んでいた(もしかしたらずっと前から様子を伺っていたのかもしれない)ホワリンだった。 【心ノ壁……壊しまス……侵入者ヲ……救いなさ……い……】 ホワリンの怒鳴り声に続き、黒い膜に覆われた美々の今にも消えてしまいそうな程に儚い声が聞こえてきた途端に___再び、【海】と【空】両方の世界に嵐が吹き荒れ、凄まじい暴風雨が吹き荒れる。 「ホワリン……っ……!?」 凄まじい暴風雨の勢いのせいで飛ばされてきたホワリンを慌ててキャッチした僕は再び現れた世界の異変に動揺しながらも黒い膜に覆われた【人魚姫】の方へと目線を移そうとする。 しかし、その前に立ちはだかるのは___まるで姫を守る騎士のような偽物の【誠】と【引田】だ。 暴風雨吹きすさぶ中、僕はホワリンが何処かに飛ばされないようにしっかりと抱き締めながら新たな異変に気付いた。 偽物の【誠】と【引田】の周りに___ダイイチキュウのテレビや図鑑で見た事のあるダツ、ヒトデ__ベタといった魚が出現していたのだ。 ダツは偽物の【誠】の右手の中に収められている___。 水色のヒトデは偽物の【引田】の前方を守るように微動だにしていない___。 ベタは美しい黄緑色のヒレをヒラ、ヒラとドレスの裾のように動かしつつ、自らの体を発光させながら優雅にその周りを泳ぎ回っている___。

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