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人魚姫の側近との戦い②

「……っ……!?」 【ざーんねん、そのちっぽけな彫刻刀で――人魚姫の側近であるボクらに敵うとでも思った?無理、無理___なんたってボクらには防御ならお手のもののライムスがついてら……でも、優太くんのその鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔――嫌いじゃないよ?】 偽物の【引田】が本物とソックリな声が笑う――。 彫刻刀で少しでも偽物の奴らにダメージを与えられればという目論見が――脆くも崩れ去ったのだから、僕をこの夢現の世界とやらに閉じ込めて人魚姫の遊び相手にしたいという願望を持つ奴らにとっては笑いたくなるのも無理はないのかもしれない。 けれど、まさか――偽物が本物のライムスの能力までコピーするとは思いもしなかった。てっきり、ライムスの偽物が変身能力のみをコピーして僕の前に現れたとばかり思っていたのだ。 僕は仲間であるライムスの能力を甘く見ていたと言っても過言じゃない。物理攻撃を跳ね返返すスライムの特性が厄介だということに―――敵として対峙する事になった今になりようやく身を持って知ったのだ。 偽物の【引田】や【誠】___それに奥に控える人魚姫にダメージを与えるどころか水色ヒトデの偽物の【ライムス】によってちっぽけな彫刻刀は跳ね返され小さな傷一つさえも奴らにつける事が出来なかったのだ。 無残にも跳ね返されたちっぽけな彫刻刀は何処かへと飛んでいってしまう。単なる《木下優太》という人間でしかなく、共に戦ってきた仲間さえ今はいないこの【夢現の世界】に囚われの身となっている僕の唯一の対抗手段だったというのに___。 (ど、どうしよう…………他に何か―――武器になりそうなものは……っ……武器になりそうな……もの……) 彫刻刀の次に武器となりえそうな物を探すために__ぐる、ぐると渦を巻くように回転しながら辺りを漂っているダイイチキュウで見慣れてる無機物たちに注目する。ふと、ダイイチキュウにいた時に通学路で何度も目にしていたある特徴的な電灯を見つけてそれを取ろうと必死で手を伸ばした。 ___チェスのキングの駒みたいな支柱。 ___先頭の部分は三つに別れていて、それぞれ灯りが付くようになっている。確かランプ支柱型の街灯だ。 その街灯の下を通る際には想太と一緒に『日本には似合わないくらいに__お洒落な街灯だね……まるで外国にある街灯みたい』と笑い合っていたのを思い出す。 遠くから見ると___槍みたいな形に見えなくもない街灯を何としてでも手にしようとした僕だったけれど、その願いは予想だにしない形で阻まれてしまう。 【優太___残念だ。お前は想い人である俺と___俺の仲間を裏切るつもりなんだな。だからこそライムスに危害を加えようとしたのだろう……それなら俺にも考えがある__お前が人魚姫と俺達の想いを邪魔するというのなら……お前を傷付けてもこの夢現の世界に引き摺り込んでやる……っ……ずっと愛するお前といたいと願って何が悪いというんだ!?】 キリリ、 ザシュッ…………!! 偽物の【誠】が―――低い声で言いながらダツという魚を持つ手に力を込める。その途端に、ダツの形がゆっくりと___だが、確実に変わっていく。元々は魚の形だったダツはやがて弓の形となりダツの尖った歯はやがて細長く鋭い矢となったのだ。 偽物の【誠】が放った弓矢の攻撃に思わず固まってしまい身動きすらとれなかった僕を無我夢中で助けてくれたのはホワリンだった。強風に撒かれ辺りを漂っていたにも関わらず寸手の所で弓矢の攻撃から僕を助けてくれた。もっとも力任せに僕の体を蹴り飛ばすという乱暴なやり方だったのだが___。 「あ、危ねえ……っ……やつら__本気だ!!本気でてめえをこの世界に閉じ込めて出さないつもりだぞ……っ……」 「そ、それは分かってる……っ……でも、でも……やっぱり___」 いくら目の前に立ちはだかるのが偽物とは分かっていても___やはり、やりにくい。先程、美々や想太――それに他のダイイチキュウのニンゲン達を救うと決意したというのに偽物の奴らが本物の仲間達と同じ声で僕に語りかけてくる度に胸に魚の骨が刺さったような痛みが走る。 特に偽物の【誠】の言葉は__未だに揺らいでいる僕の心を大いに惑わすのだ。 そんな僕の戸惑いに気付いたかは分からないけれども、偽物の【誠】が―――今まで見た事がないくらいに満面の笑みを浮かべつつ僕に近寄り優しく抱擁してくれた。そして、甘い声色で優しく囁きかけてくる。 【優太……俺と共に――この世界で愛し合おう。痛みは一瞬だけだ……それさえ我慢すれば永遠に一緒にいられる……血婚してくれ……優太___愛している】 「ま、ま……こと……っ……」 偽物の【誠】に抱擁され、頭がポーッとして脱力しきってしまっている僕は気づけない___。 偽物の【誠】が背中へダツの歯が変化した弓矢を突き刺そうとしている光景に僕は気づけない__。

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