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人魚姫の側近との戦い⑤

「ひ……っ…………!?」 僕の喉元を目掛けて放物線を描きつつ飛んでくる偽物の【誠】が放った矢がどんどんと此方に向かってくる。更には体から自由を奪われたという途徹もない恐怖に襲われたせいで反射的に目を瞑ってしまう。 【大丈夫だ___この血婚の儀式さえ終われば……全てが終わる。未だに仲間を救いきれていない、というお前の苦しみや不安__全てが水の泡となって消える……あとは人魚姫の体内に取り込まれ幸せな夢を見るために眠りにつくのみだ……さあ、優太……俺の愛を受け入れてくれ……っ……お前の血を俺に浴びさせてくれたら血婚の儀式は終わりなんだ……今のうちに、お前の__一時限りでしかなかった偽物の仲間達に別れを伝えておけ】 未だに固く目を瞑っているせいで、壁に磔状態にされている僕に対して歌うように滑らかな声色で囁きかけてくる偽物の【誠】の表情は伺えない。しかしながら、おそらく余裕ぶった笑みを浮かべながら笑っているんだろうというのが何となく分かった。 (だ、だめだ……だめだ___希望を捨てちゃ……だめなんだ……っ……怖いけど……この閉じた目を開けなくちゃ……) 困難な状態から逃れるために、目を固く瞑っていた目を僕はおそるおそる開けた。 予想通り、余裕だといわんばかりに勝利を確信して満面の笑みを浮かべている偽物の【誠】の忌々しい顔___。 そして―――、 偽物の【誠】の背後にいつの間にか存在していた《一輪の向日葵》と《園芸用の霧吹き》―――。 「サン……ミスト___」 何の疑問も持たずに僕が行方知らずの仲間達の名前を呟いた途端、それらは向日葵と霧吹きから一瞬にして元の姿であるエルフの容姿に戻った。 そして、放物線を描きながら飛んでくる矢に向かって真横から体当たりしてきたのは__やはり行方知らずだったライムスで僕の喉元に当たるギリギリの所で矢の軌道を変えてくれるのだった。そのせいで、本来ならば僕の喉元に当たる筈だったダツの牙の矢は当てずっぽうな方向へと飛んでいき、それは辺り一帯を目まぐるしく回転しながら漂い続けている複数の電柱に当たりやがては砕け散ったのだった。 「貴様も終わりだ……っ……この偽物め……」 怒りに満ちた本物のサンの弓矢が___突然の異変に動揺しきっている偽物の【誠】の胸を目掛けて勢いよく突き刺さる。 「あらら、サンを怒らせちゃったね~……普段は冷静なエルフを怒らせた報いだよ。冷静なエルフを怒らせるととっても怖い__これ、常識だから覚えておいてね!!」 その直後、僕の耳にサンの凄まじい怒り声と、ミストの喜びに満ちた声___それに胸を弓矢で貫かれ苦し気に呻き声をあげながら消え去っていく偽物の【誠】の最後の声が聞こえるのだった。

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