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人魚姫の側近との戦い⑥

偽物の【誠】が___サンの凄まじい怒りがこもった弓矢の一撃で胸を貫かれ、消え去ったおかげで僕の体を磔状態にしていた手首と足首に突き刺さっていたダツの牙の矢が砕け散り、怪我はしたものの__ようやく体の自由を取り戻せた事に安堵する。 けれども、それよりも僕の心を安堵に染め上げたのは行方知らずだったサン、ミスト__それに引田とライムスといった仲間の再会出来たという喜びであり、僕は目に涙を浮かべながら彼らの元へと移動する。 「サンもミストも……どうして向日葵と霧吹きなんていう姿になってたの!?でも、再会出来て良かった……っ……」 「その話は後にしろ……ユウタ、我々にはまだ倒さねばならない相手がいる」 「良かったよ、優太くん……っ……!!ちょっと遅れちゃってゴメンね?でも、あのタイミングでしかキミを救えそうもなかったんだよ。まあ、それはそれとして――意地っ張りエルフのサンが言うとおりだよ……優太くん。偽物の木下誠はやっつけたけど、まだアイツらがいる……まったく、ぼくの姿形を真似するなんてふざけた奴だ。しかも、偽物のミストやライムスまで引き連れているなんて厄介な事この上ないよ」 警戒を露にする引田やサンの目線の先には__仲間である筈の偽物の【誠】と【サン】が消え去ったにも関わらず、動揺すら浮かべていない余裕たっぷりだといわんばかりに笑みを浮かべている偽物の【引田】【ライムス】【ミスト】が悠然と僕らの様子を見下ろしていた。 【ミスト…………】 と、唐突に偽物の【引田】が口角をあげて不気味な笑みを浮かべながら偽物の【ミスト】の名を呼んだ。すると、ベタという魚の姿形であり今までドレスの裾のようなヒレを靡かせながら移動していただけの偽物の【ミスト】の目が血のように真っ赤に光を放ちつつ僕らの方へと向いたかと思うと、ついさっきまでは鱗にまみれた黄色の胴体に黄緑色の美しいヒレといった容姿から、偽物の【引田】から名を呼ばれた途端に鱗にまみれた胴体も美しいヒレまでもが血のように真っ赤に染まるという異変が偽物の【ミスト】に起こったのだ。 【さあ、ミスト…………キミの魔力の力を奴らに見せてあげるといい。一時は優太くんを本気で愛してたぼくにだって血婚の儀式は行える__それさえ行えれば消え去った誠やサンだって……この人魚姫が作った夢現の世界に戻ってこれる__ぼくらは深い絆で繋がってるからね……】 偽物の【引田】がその言葉を言い終えた直後、これから何が起こるのか分からずに警戒を露にしている僕らの方に目線を向けていた偽物の【ミスト】の赤い目が、今度は僕らの背後へと移動する。 そして―――、 【…………】 偽物の【ミスト】は細くすぼめつつ、何度か口を開けたり閉じたりした。まるで何か短めの言葉を呟いているかのように、モゴモゴと口を動かし終えた。 すると、今度は急に偽物の【ミスト】が細くすぼめた口から勢いよく泡を吹き出した。てっきり、警戒を露にして若干動揺している僕らに向かって直接的に泡を吹き出し攻撃を仕掛けたのかと互いに思ってしまったためほぼ同じタイミングでその泡を避けた。 けれど、偽物の【ミスト】が勢いよく放った泡は僕が――いや、おそらく誠、サン、ミスト、それに引田(ライムス)が予想していた考えとはまるで違う場所に当たっていく。 辺り一帯をぐる、ぐると回転しながら漂い続けている何十本もの電柱―――それらに向けて、偽物の【ミスト】は細くすぼめた口から吹き出した泡を当てたのだ。 やがて、電柱は徐々に姿を変えていく___。 そして、呆気にとられている僕ら一行を嘲笑うかのように電柱は変化を終え__まるで、おとぎ話に出てくる灰色の騎士の群れとなるのだった。その灰色の騎士達の手には、先程まで同じように辺り一帯を漂っていた街路樹の武器を構えており、何股にも別れている先端は刺のように鋭く尖っているのだ。 そして、灰色の騎士達の群れの頭部がギ、ギ、ギ、と音をたてつつ一斉に此方を向き終えた後僕らは灰色の騎士の群れが此方に対して敵意を露にしてくるのを嫌でも察せざるを得ないのだった。

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