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人魚姫の側近との戦い⑩
(まったく__このふざけてた世界には呆れたよ……二度と行きたくないと思ってた母校の校舎が__こんな形で再びぼくの行く手を阻む事になるなんて……でも__どうしてあの時計の針は始業前の1分前っていうギリギリの時刻で止まってるんだ……もしかしたら何か意味でも……)
先程、ライムスが口にした目覚まし時計の【音】という言葉___。
今、引田の目の前に漂い続けていてダイイチキュウで暮らしていた時の母校の校舎にかけられた時計の針が7時59分という絶妙な時刻で止まっているという現象___。
ひとつ、良い方法が思い付く。まるで、パズルピースがぴったりと嵌まったかのようにスッと頭の中に浮かんだのだけれど、自信家な一面と心配性な一面とが絶妙に混ざり合っていて厄介ともいえる性格の引田の心の中は《この作戦は上手くいく》という思いと《上手くいかなかったらどうしよう》という思いとが右往左往していた。
(ああ~、もう面倒くさい……っ……あの堅物エルフのサンじゃあるまいし……うだうだ考えていても仕方無い……上手くいかなかったら__その時はその時だ……っ……)
引田の心の中が一面《面倒くさい》という思いで溢れた。まるで、ポンプの中に入った水が溢れ出るかのように___葛藤や迷いが心の中から流れていく。
「おい……ライムス、悪く思わないでよね……っ……」
と、一言___悩みに悩んで眉間に皺を寄せている主人の様子を心配そうに見つめていたライムスを引田がガッと掴む。
「頼むから……上手くいってくれよ……っ……!!」
「___っ…………!!?」
ライムスが何かを言う前に、引田は手に掴んだ仲間を辺りに浮遊し続けている《ダイイチキュウの母校である校舎》に向かって勢いよく投げていた。
考えもなく__ただ、がむしゃらに投げた訳じゃない。時計の針が、7時59分で止まっている校舎にかけられた時計に向かって勢いよく投げたのだ。
ボヨンッ…………!!
「なっ……なにをするのデスか……っ……ど、どうして……こんな……ひどいことをするのデスか!?」
「…………」
時計にぶつかり、ぶつ、ぶつと文句を言いつつも再び主人である引田の元に跳ね返ってきたライムスが流石に怒った口調で尋ねる。
しかし、主人は答えない___。
未だに《ダイイチキュウの母校にかけられた時計》の止まったままの針の様子をジーッと見つめている。他の事はどうでもいいといわんばかりに真剣な目付きで__。
すると___、
『キーン、コーン……カーン、コーン……』
『キーン、コーン……カーン、コーン……』
針がゆっくりと右側に動いて___
辺りにダイイチキュの学校にいた頃に散々耳にしていたチャイムが鳴り響く。その音が聞こえた直後、引田は周りで騒ぎ続けていたライムスを振り切ると未だに気絶し赤紫色の毒々しい触手に捕らえられたままの仲間の元へと急いで近寄った。
「さあ、優太くん……そろそろ授業の始まる時間だよ___クラスメイトもみんな君が来るのを待ってる……だから、一緒に授業を受けよう」
優しく優太の耳元で___引田が囁くのだった。
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