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異様な熱気に包まれながら僕ら一行は砂の神殿に辿り着く②
「ちょ……ちょっと待ってったら……もう、ただでさえ___この暑さでヘトヘトなのに……っ……」
そう言いながらも、ミストは必死で【コオロギみたいな高価な生き物】を追いかけていき、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら移動するそれを追いかけていく。僕らはギラギラと照り続ける太陽の威力に耐えつつミストを熱心に追いかけていくが、元々運動不足気味な僕はともかくとして___人間よりも暑さや寒さに耐性があるライムスやダイイチキュウでスポーツをしていた誠や引田までもがミストの異様なまでの【コオロギみたいな高価な生き物】に対する執着心に驚きを隠せないようで呆然としている。
「よし……っ……やっと捕まえ……た……って___あ、熱っ……!!」
砂地をちょこまかと飛び跳ねつつ逃れる【コオロギみたいな高価な生き物】を捕まえるためにミストが両腕を砂に突っ込み、手応えを感じたのも束の間___ふいに、ミストが砂山から手を引っ込めてしまう。
「ど、どうしたの……ミスト……!?」
「いや、別に大した事じゃないけど__なんか……このこに触った途端に熱く感じたんだよ……ユウタもちょっと触れてみなよ」
そのミストの言葉を聞いて不思議に思いながらも、おそるおそる【コオロギみたいな高価な生き物】へと手を触れてみた。確かに、ミストの言う通り__その胴体は沸き上がった湯のような熱感を帯びていて、触れただけでその部分が赤くなりヒリヒリしてしまうくらいだった。
ザッ……
ザザーッ……
僕らがやり取りを交わしている事などお構い無しに【コオロギみたいな高価な生き物】は自由気ままに素早く飛び跳ねつつ前へ前へと移動していき、ふと___僕らから少し離れた場所でピタリとその俊敏な動きを止めた。
まるで、【早くこっちに来なよ】といわんばかりにジーッとしている様子を見て、僕ら一行は慌ててそちらへと駆けて行く。【コオロギみたいな高価な生き物】のいる場所に辿り着く前に、誠が先程赤くなった僕の指先を優しく手当てしてくれて幸せな気分に浸っていたのだけれど、そんな気分も【コオロギみたいな高価な生き物】が微動だにしない場所に存在する神殿らしき建物(とはいえ砂で造られているのは明らかだ)を目の当たりにして殆ど吹き飛んでしまった。
砂造りの神殿の周りで、動物の面を被り上半身は裸という異様な格好をした者達が四角い棺を掲げながら不気味な呪文らしき言語をブツブツと繰り返し唱えていたからだ。正確にいえば、棺を掲げているのは二人だけで、その他数十名の異様な格好をした者らは呪文らしき言語を繰り返しブツブツと唱えながら棺の周りをグルグルと回り続けているのだ。
【お葬式】と似た行為をしている者らが頭に被っている動物の面も__犬の面や豚の面、果ては蛙の面といった具合に様々あり、さして共通性が無さそうなのも余計に不気味さを醸し出している。
【ΧχφИлёежжттш】
ふと、棺の周りをグルグルと周りながら謎の呪文らしき言語を繰り返し呟いていた者達の目が余所者ともいえるであろう僕ら一行を一斉に見据えた。揃いも揃って、金色の蛇みたいにギラギラとした鋭い瞳で睨み付けてくる。
【おや、我らの大いなる儀式に興味を持たれるお客人が来られたようですね……大いなる儀式はもうすぐで終わる予定でしたけども……仕方ありません……完全な儀式をし終えるには邪念そのものを取り払わねばならない___さあ、お客人よ……我らの神殿においでなさい……宴を始めようではありませんか】
辺りに響き渡るくらいに凛とした美しい声で__棺を掲げていた内の一人であり、頭に犬の面を被っている者が口を開いて僕ら一行へと言ってきた。
咄嗟に目のやり場に困ったのは___声からして明らかに女性であり、それでいて上半身裸なのを隠す素振りさえ見せなかったからだ。
得たいの知れない存在とはいえ、女性が上半身裸というのは___やはり目のやり場に困る。それは、どうやらダイイチキュウでもミラージュでも同じらしくて僕や誠や引田だけでなく、ミストやサンもが犬の面を被っている得たいの知れない存在である彼女から咄嗟に目線を逸らした事に気付いて可笑しくなった僕はついつい笑みをこぼしてしまうのだった。
いや、それよりも問題は犬の面を被っている彼女と周りの得たいの知れない者らの招待を受け入れるべきか否かを考えなければならないのだ___。
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