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砂の神殿には何が待ち構えているか①

◆◆◆ 「___ようこそ、砂の神殿へ。此処に来た者らは……みな、口を揃えて言います……別名、金の神殿とも。新しき王の誕生には栄華が何よりも重要__だからこそ、この神殿を下々の民に作らせましたのよ。さあ、宴の広場は__この廊下の先にございます故、どうぞ此方へ……皆さまを極上の快楽へと誘わせて頂きましょう……」 ベニーオの冷静で透き通るような美しい声が広い神殿内に響く。神殿内部はおそらく僕らが思っている以上に広いのだろうと思った。ベニーオの後ろに付き従いながら【шштлφжш§】と、まるでミストが魔法詠唱時に唱えるかのような言葉を、ぶつぶつと何度も繰り返し呟いている動物面を被った者達の小声さえもこだまし、辺りに響いているからた。 魔法詠唱時に唱えるものと似たような言葉にも関わらず、首を少し傾げながら怪訝そうに動物面の者達を見つめるミストの様子から察するに___僕らだけじゃなくて、ミストもその謎の言葉の意味は分からないらしい。 と、ふいに___足を止めてしまった。 ベニーオの後ろについていて尚且つ僕の前を歩いていた引田が唐突に止まってドン、と彼の背中にぶつかってしまったからだ。よくよく見てみると、引田はベニーオや周りの動物面の者達に気づかれないように地面に転がっている何かを拾ったかのように見えた。何をしているのか、と聞こうと思っていると__それを察したかのように引田が僕の方に振り返って、口元に人差し指を突き付けて『しぃーっ』と言いたげな素振りを見せたため、それ以上は何も聞けない雰囲気になってしまった。 そして、暫く長い廊下を歩き続いていると___今度は、前方にいるベニーオのすぐ後ろについていた誠がピタリと足を止めた。 「これは、いったい何なんだ___まるで……」 と、誠は途中で言葉を切ったけれど彼の言いたい事は僕や引田には何となく予想がついた。誠が足を止めた箇所の壁は金ではなく土壁が剥き出しになっていて、辺り一面には壁画が描かれている。 (こ、これ___ダイイチキュウのテレビで見た古代エジプトの壁画みたいだ……しかも、この壁画に出てくる人や生き物……って……) ダイイチキュウで見慣れた畳らしき場所の上で仰向けに倒れて人物の男の顔は上半分が黒く塗り潰され見えない___(黒い服を着ている人物の側には一匹の蜘蛛と鳥の姿)___。 黒い服の人物と白衣を着て椅子に座っている人物とが向かい合う姿___(周りの文字列はヒエログリフのように崩れていて謎の文字と化ているため何と描いてあるかは読みとれない)___。 二人の男の子が背中に四角い箱みたいなものを背負って互いに手を繋ぎながら笑顔で歩いている姿___(苦しみや不安など無さそうだ)___。 一度は足を止めたベニーオが再び歩き出したため、僕らも後に続きながら皆が興味深そうに壁画を目で追っていきながら歩いていく。 ガコン……ッ…… 「さあ、此方が宴の広場でございます___そのような過去の産物よりもお客人らには華やかな未来と極上な快楽をおもてなしさせます故、此方へ__どうぞ?」 僅かに語気を強めたベニーオの言葉を聞いて、僕らは開いた扉の中へと入ろうとする。 壁画の最後に、大樹の天辺で雷に撃たれている鳥と、その真下で悲しみにくれる黒い服の人物__そして一匹の蜘蛛が怒り狂う様が描かれているのを僕は見逃さなかった。

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