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狂宴の始まり、始まり①

◆◆◆ 新たなる王の誕生を祝う宴とやらが始まって少しした後に僕は、ふいに――ある事に気付いた。 引田と誠が、いつの間にか宴の場からいなくなっている。その事に気付いて、僅かに疑問を抱いた僕だったけれど、あまりにも宴が盛り上がって楽しさを感じていたせいからか、特に重要視せずにベニーオやワニ面の男性から勧められた豪華な料理や色とりどりの果物を口に入れて腹を満たす。 【飲料や食物を口にして腹を満たす事は、人間にとって(もちろん他の種族にとっても)極上の快楽となる】 ふと、右横に目をやるとミストが酔っぱらいのように頬を赤くさせて気持ち良さそうな笑みを浮かべながら、すやすやと眠りこけている。宴の華やかさに興味を注がれてライムスの内部から出てきたホワリンも普段は兎のように真っ白な毛色が強い酒気を帯びたためか桃色に染まっている。つまり、其れほどミストとホワリンは酔っているという事であり、酒という飲料を媒介にして睡眠という欲を満たす。 【誰にも邪魔されない心地よい睡眠を行なう事は人間にとって(もちろん他の種族にとっても)極上の快楽となる】 左横に目を向けてみると、ベニーオが合図した途端に何処からか現れた裸の金髪碧眼の美少年(種族は人間やエルフのようだ)達がサンの周りに集まって__あまり口に出したくないような羞恥じみた行為を行なっている。いつもは堅物で生真面目かつ神経質なサンはそれを払拭するかのように性という欲を満たす。 【性行為を行なうという事は人間にとって(もちろん他の種族にとっても)生真面目で堅物なものにほど中毒性を抱かせ、やがてじわりじわりとゆっくりと蝕む毒の如き極上な快楽となる】 室内を見渡せば見渡す度に目に入ってくるのは___ほう、と思わず溜息を漏らしてしまうくらいに積み上げられた黄金の山、それに久しぶりに目にした仲間達の極上の笑顔___。 (これさえあれば__もう、何もいらない……ダイイチキュウでも縁がなかったような__この金の山さえあれば……何も……っ……真実の愛だっていらない……) その時、唐突に強烈な眠気が襲ってきて僕は力無く__隣にいる人物の逞しい体に向かって倒れ込んでしまった。 強烈に襲ってくる眠気のせいで、靄がかかったようにボンヤリとした視界の中で__僕は目元がハッキリと見えず口角だけをクッとあげて笑みを浮かべる誠へすがるようにしてゆっくりと逞しい彼の体を抱きしめるのだった。

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