そして、ふと＿＿＿＿＿引田は右側の二等辺三角形の側に両耳が黄金色で黒い犬面を被っている男(顔は見えないけれどがっしりとした体型からそう判断した)が片足を地につけて膝まつきながら二等辺三角形を片手で支えるような体制で描かれている事に気付く。 左側の二等辺三角形の側には犬面の男と対面するようにして真ん中辺りにワニ面を被っている男、それと右端にベニーオと瓜二つな格好をした女性が描かれている。けれど、その壁画の右端に描かれているベニーオと瓜二つな女性の髪の毛は黒ではなく灰色で＿＿＿うね、うねと風になびくかのように蠢きつつ四方八方に伸びている灰色の髪の毛は、黄金色の瞳を持つ太い蛇のように見えなくもないと引田と誠は思った。 引田は考える＿＿＿＿＿。 己をこれ程にまで興味深いと感じさせている、この壁画には何か特別な意味が有る筈なのだと＿＿＿＿。 得たいの知れないモヤモヤとしたその原因を考えるしかない、と無我夢中で頭の中に幾つもの浮かんでくる発想を消しては組み合わせるのだった。もちろん、それは隣にいる誠も同様で引田がこの壁画に対して何らかの意味が有ると確信めいた考えを持っているという事を彼の必死で長考している様から汲み取っていた。 だからこそ、誠は恋人であり仲間でもある優太に対して、かつてはちょっかいをかけていていけ好かない奴だと感じていた引田に対していつものように悪態をつく事はせず＿＿それどころか話しかけもせずに、ただ見守っている事にしたのだ。 眉間に皺を寄せつつ必死で考えを張り巡らしている引田を邪魔する事のないように＿＿＿＿。 ◆◆◆ いったい、どのくらいの間＿＿＿そうしていたのだろう。 あと一歩で、何かが思い浮かぶ――といった所なのだけれど確信めいた考えが肝心な時に引田の頭の中で消えてしまう。確信めいた発想がないと行動しようにも、不安という感情が付きまとうせいで尻込みしてしまう。 と、その時＿＿＿＿＿今までずっと黙り込んでいた誠が不意に口を開いた。 「なあ、引田＿＿＿これ、お前には何に見える？俺には――人間の心臓のように見えるんただけど……気のせいか？」 「木下誠……っ…………それ、それだ……っ……人間の心臓だよ！！」 誠が砂を被っていて明確には見えていなかった右側の二等辺三角形の底部分を手で擦りつつ黄金の砂をパラパラと払いながら、少しだけ遠慮がちに引田へと尋ねる。 その瞬間、引田の頭上へと閃きの神が降りてきたのだった。