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ライバル同士は異変に気付き策を練る⑤

「もう……っ……これだけヒントをあげてるのに、まだ分からないわけ!?悔しいけど、いつもは頭だけは良かった木下誠らしくないよ……って___いや、待てよ――もしかして……」 ぶつ、ぶつと文句を言いながら引田は慌てて己が着けている首巻きを外すと、それで口元全体を覆うようにして被ってから顔がピッタリとくっつくようにして壁画へと近づくと僅かな隙間へと目を凝らす。 すると、唐突に忌々しそうに眉間に皺を寄せた引田が何も言わずにすぐ側にいる誠を一瞥してからジェスチャーで《自分と同じように口元を覆え》と伝える。その後、誠が自分の言う通りにした事を確認すると、今度は地面に落ちている黄金色のコインを広いあげる。そして、それを縦に持って細い壁の隙間に慎重に差し込んでいく。 「ひ……っ…………!?」 壁の隙間から___ぼと、ぼとと何かが落ちてくる。よくよく見てみれば、その物体から白煙のが吹き出ているのが分かる。そして、その度に眉間に皺を寄せたままの引田が容赦なく踏みつけていく。 【ピギャッ……ピッ____ピギャーッ……】 暫くすると、白煙を撒き散らす謎の物体から発せられる断末魔の鳴き声が徐々に弱くなっていき___やがて完全に聞こえなくなった。 「な、何だったんだ……こいつらは……っ……」 「____スカラベ。糞転がしともいうけど……古代エジプトではスカラベはとっても重要な存在で神聖視されてたんだ。丸い玉を転がすスカラベは太陽を司る存在と本気で信じられてたんだよ___どう、ちょっとは頭が冴えてきた?」 引田は口元全体を覆っていた首巻きをササッと素早く取り外すと、それを首に巻き直しながら満足そうにニコッと微笑みつつパートナーへと尋ねる。その笑顔には、どことなく安心したような様子が滲み出ている。 「ああ___まるで、さっきとは嘘みたいに頭の中がスッキリしている。この壁画の太陽の中心に描かれている【εЭω】の謎文字も……今ならこれが《3》という数字を表してるのが分かる。つまり、三回までは俺達にチャンスを与えてやる、と――そういう事だろ?」 「そりゃ、そうだよ……多分だけど、このスカラベが撒き散らしていた白煙に何らかの――恐らく判断力を鈍くさせたり、頭をボーッとさせる作用があったんだろうね。つまり、ぼくらはこの壁画の前に来た時点で微量な白煙を無意識の内に吸ってたはず。そして、首巻きして僅かだけど口元が隠れていた、ぼくよりも先に木下誠___あんたにその脅威が迫ったんだ。全く、危ない所だったよ。このままだと二人纏めて廃人になる所だったから。でも、まだ謎は残ってる___この窪みに嵌め込む動物が何なのか――それを解かなくちゃ!!」 その後、気を取り直した引田と誠は窪みに嵌め込む【動物】探しの作業を再開するのだった。

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