502 / 713

仲間全員で脱出するためにライバル同士は奮闘する②

「おい、引田___これは一体どういう事なんだ……どうして――横向きの猫の煉瓦に彫られているんだ……いや、これをこの窪みに嵌め込むのは分かるが__それにしても……どうして猫なんだ!?」 「い……良いから――早く、それを壁画の窪みに嵌め込んで……っ___そうじゃないと……そのうちの奴等が……きちゃ………う……っ……」 ドサッ……と唐突に引田が倒れた。あまりに唐突な様子を目の当たりにして、誠は絶句し__暫くの間は引田の体が右側に傾く様を目を丸くしながら見つめる事しか出来ない。 ハッと我にかえった誠の目に飛び込んできた光景の状況から、彼が気付いたことが二つある。 ひとつめは、力なく右側に傾きつつ倒れ込んでしまい、そのまま腹を地につけた形で、うつ伏せ状態で地に伏してしまっている引田の胸に鋭い刃物が深々と突き刺さっていること。 ふたつめは、壁画に向かっていた誠達の背後から音もなく忍び寄ってきた何者かが___何の躊躇もなく引田の胸元に鋭い刃物の先端を深々と突き刺したこと。 「……っ…………!?」 いつの間にか背後から忍び寄ってきて、引田の胸元を突き刺した何者かの姿が___あまりにも異様な格好をしているので、誠は声も出せないくらいに呆気にとられてしまった。 両腕と両足以外の胴体には包帯がグルグルに巻き付けられ、頭には黒兎の被り物をつけている。しかし、誠が呆気にとられたのは__その者の異様な姿だけではなく――ほどなくして棒立ちするしか出来なかった誠に対してとった意外すぎる行動のせいでもあった。 【…………】 その黒兎の面を被っている存在が、何も言わずに呆然とし続ける誠の体を抱き締めたのだ。 けれど、ここにきて誠は本来の目的を思い出す。ピクリとも動かずに地に伏している引田の願いを引き継いで____やっとの思いで手にした【横向きの猫が彫られている煉瓦】を窪みのある天秤の壁画へと嵌め込まなくては、と思い直した誠は黒兎の面を被っている存在を突き飛ばし、急いで嵌め込まなくてはと【脱出するために必要となる鍵】を持っている右手を無我夢中で窪みの方へと伸ばした。 しかし___、 シュッ…………!! 「くっ……あっ___!?」 何処からともなく、勢いよく矢が飛んできて窪みの方へと伸ばした誠のちょうど手首に当たってしまう。そのせいで、【脱出するための鍵となる猫が彫られた壁画の一部】が誠の手から落ちて遠くへと転がっていってしまう。 その行方も気になったが、誠は何処から矢が飛んできたか気になって辺りを見回した。すると、ひときわ高く積まれた黄金の山のてっぺんに己を見下すようにして立っている弓矢を構えた者がいる事に気付く。 その者も、また___背後から忍び寄って引田の胸を鋭い刃物で突き刺した謎の存在と同じよう両腕と両足以外の胴体に包帯が巻き付けられて頭には鷲の面を被っているという異様な格好をしているのだった。 ただ、黒兎の面を被っている謎の存在とは違う所がひとつだけある___。 弓矢を構え続けて誠を見下ろすようにしている鷲の面を被っている存在の両耳は___細長く尖っているのだ。

ともだちにシェアしよう!