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安らぎを求めて①

◆ ◆ ◆ 砂漠にも夜はくる____。 例えそれが、昼間はギラギラと太陽が照りつける灼熱の砂漠でも__おそらくは僕ら一行の敵であるスーツ姿の男【金野 力】の忠実なる下僕【アラクネ】が造り出した《砂の世界》だとしても空一面を真っ黒くカーテンのように覆い尽くしてしまう《夜》は訪れるのだ。 「やっぱり、星が見えないなぁ……疲れた日に星を見るのが大好きなんだけどな――ダイイチキュウのようにはいかないか。ミラージュにはミラージュの良さもあるけど」 「引田は___ダイイチキュウに戻りたいつて思ってるの?」 「違うよ、優太くん。別にそういう訳じゃなくてダイイチキュウの砂漠でこんな風に寝っ転がって星を眺めたら……どんなに綺麗だろうなって思っただけだよ」 夜になったからか、ひんやりと冷たくなった砂の絨毯の上で__僕は引田と久しぶりに二人きりで話をした。確かに引田の言う通り、砂漠に大の字で思いきり寝っ転がって夜空を眺めるのは気持ちがいい。疲れた心が癒されていくのが身に染みて分かるものの、星が見えれば尚のこと良いという引田の願望も無理はないと思った。 「そういえば、さっきの砂の神殿で――どうして窪みに【猫が彫られている煉瓦】を嵌め込めば脱出出来るって思ったの?」 「ああ、それは__ぼくがさ、優太くんにコレを拾い上げてから誰にも言わないでっていうジェスチャーをしたのを覚えてるだろ?その時に、ピンと来たんだ……あの宴には《十二支》が関わっているんじゃないかって。最初に神殿に足を踏み入れた時に鼠の群れが駆けてきたとか、宴の間に出てた料理の内容とか__その他諸々に《十二支》の動物がいたの……優太くん気付いてなかった?」 引田がズボンのポケットの中から取り出したもの____それは、ダイイチキュウで見慣れた年賀状の一部だった。乱雑に破れているため、裏側の切手を貼り付ける羽子板が描かれた部分と名前の一部しか見えない。名前の一部であろつ【金】という文字が見える。 ◆ ◆ ◆ 「ぼくは何だか少し疲れちゃったよ……おやすみ、優太くん――木下誠とエッチなことしないでよ?」 「そ、そ……そんなことしないよ……っ……おやすみ、引田__」 そんな会話を交わしている内に___段々と睡魔が襲ってきて、やがて僕と引田は眠りの世界へと誘われてしまうのだった。 これから【アラクネ】の行方を探さなければいけないのだ___。 そのためにも、休息はとても重要なものとなる。

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