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安らぎを求めて②
◆ ◆ ◆
星ひとつないくらいに真っ暗な夜が明けた。
黄金色の太陽が再び【アラクネ】の行方を探して、一面砂山に囲まれた世界を歩き続ける。
「なるほど……《十二支》に猫は存在しない__存在しないのだから、壁画に描かれていた他の動物達よりも軽いといえる《存在のない猫》の煉瓦を窪みに嵌め込んだ訳か。よく、そんな風に考えられたな」
「うわ――何か、いつも素っ気なかった木下誠がそんな風に、ぼくの事を褒めるとか……慣れてなくて照れるんだけど。ちょっと__いや……かなり強引な考え方だったけど――まあ、結果オーライだよね?」
などと、僕の後ろを歩く引田と誠の会話を耳にしながら__いつの間にか仲良くなりつつある彼らの様子を見て、無意識の内に微笑んでしまった。もちろん、ダイイチキュウに暮らしていた時は余り仲が良いとはいえなかった引田と誠が仲良くなりかけている事に気付いて嬉しさが込み上げてきたからだ。
「…………」
「…………」
引田と誠が会話を交わす中、ミストとサンは再び砂漠を歩き始めてから一度も口を開かなかった。いつもであれば、誠の言葉を聞いて照れくさそうにする引田をからかいそう(特にミスト)だったけれど___ふと、横目で見たミストの様子に気付いた僕は目を丸くしつつ驚いてしまう。
酷く具合が悪そうだ_____。
先程から無言だったのも、そのせいかもしれない。額から汗が大量に吹き出して肩で息をしている。フードを目深に被っていても、防ぎきれないほどに発汗している。頬を伝う汗の色が透明ではなく僅かに青色がかっているのがミラージュの住人で尚且つエルフという種族のミストらしい。
ズサッ…………
ギラギラと照りつける太陽の光線に耐えきれなくなったのか、とうとうミストは両膝を砂の上につきつつ前屈みに倒れ込んでしまった。慌てて駆けよって倒れ込んでしまったミストに水をかけようとカバンから水筒を取り出したけれど__その中には水が入っておらず空っぽな事に気付いた僕は慌てて周りに安心して休める場があるかどうかを観察してみる。
ゆら、ゆらと揺らめく蜃気楼の中には砂の海しか見えないと思っていた。
しかし、暫く蜃気楼を注意深く観察していた僕の目に、ダイイチキュウの南国にあるようなヤシの木が何本も飛び込んできた。それだけでなく、澄んだ透明な泉___ラクダのような生き物の目に入ってきたため《あれはオアシスだ》と僕は判断したのだった。
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