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安らぎを求めて③

◆ ◆ ◆ 何本も聳え立つ南国のヤシに似た独特なフォルムの木々___。 360℃砂に囲まれてた光景にはいなかった、ダイイチキュウのアリやサソリ__それにハチによく似たフォルムを持つ生き物達が水分を求めて透明で澄んだ泉に向かって飛んだり歩いたりしている___。 色々な種族のミラージュで暮らす者達が休息しているのか___どこからか軽快な楽器(笛や太鼓によく似た音を奏でるもの)のリズムカルな音楽が聞こえてくる。思わず踊ってしまいそうになるくらい軽快なそのリズムに合わせて女性の美しい歌声までもが聞こえてくるのだ。 「まさか___こんなに美しくて楽しそうな雰囲気のオアシスがあるなんて。これで、ミストも少しはよくなるだろうね……」 「だが、早めにここを出発しなくては……あの忌々しいアラクネを退治する事が我らの目的なのだからな。悠長に休んでいる暇などない――休息は最小限にしなければ……」 パシッ………… ぐったりと項垂れているミストを背中に背負っていたサンが眉間にシワを寄せつつ、澄んだ泉の側に弱っている仲間の体をおろしてから自らも腰掛けつつ独りごちた。しかし、僕が彼らの元へと駆け寄っていく最中に先にミストとサンと共に泉の側へと移動していた引田が珍しく真面目に怒っている様子を露にしながらサンの頬を叩いたのだ。 「まったく、見損なったよ……堅物エルフ。今までどんなに冷たく見えてても、本当のあんたは誰よりも仲間思いだって信じてたのに。そんなところに、悔しいけれど段々と__ひ、惹かれちゃってたのに……っ……!!大切な仲間であるミストが具合悪そうなのに、そんな事を言うなんて……今のあんたなんか大嫌い!!」 そう言い放つと、こんなギスギスした雰囲気の場所にいたくないといわんばかりに引田は素早くどこかに駆けて行ってしまった。慌てて引田を追いかけようとして横を通り過ぎる彼の顔へ目線を移し、僕は滅多に泣いた事のないクラスメイトの目に大粒の涙が浮かんでいる事に気付いたのだ。 「私は____私は……仲間思いなどではない」 ポツリ、と呟くサンの言葉とぐったりと横たわったままのミストの体調が気になったものの、僕は信頼している誠に彼らの世話を任せると、そのまま急いでどこかに駆けて行ってしまった引田の後を追いかけるのだった。

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