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ようこそ、幻惑の【オアシス】へ②
◆ ◆ ◆
ピョン、ピョンとマイペースに飛び跳ねていく【コオロギ】を必死で追いかけ、その後に辿り着いた場所で、僕の目に飛び込んできたのはダイイチキュウの頃には見る機会さえ無かったような魅惑的な光景だった。
先程、皆と一緒にいた泉よりも少し小さな泉を取り囲みながら、数人の美しい乙女達が水浴びをしている。パッと見た感じではダイイチキュウに暮らしていた人間の女性と瓜二つで――まるでプールや海で遊んでいるかのように丸くて赤いビーチボールのようなものを投げ合いながら遊んでいるようだ。
赤いビーチボールのような物の大きさがダイイチキュウで見た物よりも少し小振りなのが気になったけれど、それよりも僕の目を釘付けにしたのは、甲高い少女のような笑い声をあげながら楽しそうに遊んでいる乙女達の傍らに引田がぐったりと倒れ込んでいる光景____。
「____あ……っ……」
あのっ……と水浴びをしている数人の黒髪の乙女達に声を掛けて注意深く近付こうとする前に、一斉に振り向かれ___そして、鋭い蛇のような目付きでギロリと睨み付けられてしまう。
まるで、全身が石にされてしまったかのように動かせない。それは一瞬の事ですぐに体が動かせるようになったのを確認するとホッと安堵した。
しかし、それも束の間__ハッと我にかえり今するべき事の優先順位を判断し直すと、乙女達に声を掛けるよりも前にぐったりと倒れている引田の方へと慌てて駆け寄る。
するとキキ、キキキと白い歯を剥き出しにしながら乙女にあるまじき下品ともいえる声で笑い合う黒髪の彼女らが今度は此方が予想もしないような行動をしようとしているのに気付く前に僕は引田の体を精一杯の力で引き上げて背負う。
予想外の事が起きたのは、その直後だった。
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