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ようこそ、幻惑の【オアシス】へ④
「……っ…………!?」
中央にいる黒髪の乙女の手によって叩きつけるように勢いよく放り投げられた赤いビーチボールが地に着いた途端に萎み始め、その途端に今まで赤いビーチボールだと思い込んでいたそれは姿を変えて呆然とする僕の目に飛び込んできた。
地に落ちたもの___それは、真っ赤に熟れた石榴だった。しかも、叩きつけられるようにして地に着いた石榴はひび割れてしまい粉々となってしまっていて透明な赤い実が辺りに散らばっている。
と、ふいに____地に落ちて散らばっている赤い石榴の実がぴくぴくと動いているように見えた。赤いビーチボールが石榴に姿を変えたのと同じように、辺りに散らばった数十個程の石榴の実も元々の物とは駆け離れていて予想もしないような奇抜な姿へと変わっていくのだ。
大きさは石榴の実とほとんど変わらず、若干大きくなった程度の変化しかないものの見た目は奇抜な物へと変化している。胴体部分は、石榴が腐った時みたいにドス黒くなり、背中からは真っ赤に熟れた石榴の実色をしている羽が生えている。顔には白い触覚が生えていて、僕はこの生き物を何処か___そう、ダイイチキュウで見た事があると思った。
蜂によく似ている____。
両脇に己よりも小柄な乙女達を従え、泉の真ん中にいて凄まじい怒りを僕らに向けてくる【黒髪の乙女】は__さながら、女王蜂といったところか。
不意に黒髪の乙女【女王蜂】が《今すぐに攻撃しろ》といわんばかりに、優雅に片手を動かして口元を隠しつつ『キキ、キキキ……キキッ……』と鳴き声を発してくる。
ヴヴ、ヴヴヴヴ……ッ……と羽音を響かせながら__女王蜂【黒髪の乙女】に忠実であろう働き蜂【石榴の実】達は一斉に此方へと襲いかかってこようとしたため僕は慌てて駆け出す。途中、何度も生い茂る植物に足をとられて転びそうになりながらも無我夢中で息をきらしながら走り続ける。
ヴヴ、ヴヴッ……ヴヴヴ……と背後から聞こえてくる羽音が気になったものの、ここで振り向いてしまっては負けだ、と思い必死で走り続ける。
しかし、その最中____唐突に羽音が全く聞こえなくなり、何があったのだろうかと疑問に思いながらも、誠達が自分達を待っているであろう泉まで戻りたい一心でひたすら前へ、前へと走り続けるのだった。
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