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ようこそ、あたしの【オアシス】へ③

ポチャンッ____という音を立てて、真っ赤に熟れて美味しそうだった筈の林檎は沈んでいき、それと同時に毒々しい黒へと色を変化させていき__やがて完全に毒の泉の中へと消えていってしまった。 まるで、煮えたぎるマグマのようにボコ……ボコッ____と音を立てながら林檎が沈んだ水面の方から泡がたち始める。 「そう……あなたはリッくんの好意よりも__あなたの双子の弟――ええと、ソウタ……だったかしら?そのソウタを人質にとって、あなたを裏切ったミラージュの王子様を選ぶのねっ……それなら、こっちにも……考えがあるわ。いいえ、作戦といった方が相応しいかしら……さあ、可愛い可愛いお人形さん達――餌のお時間よ!!」 「な……っ…………!?」 その後、アラクネの口から美しい歌声が聞こえてくる。かつて、僕ら一行と戦ったハーピーの声色に瓜二つなその歌は毒々しさに包まれた紫と黒い木々や泉が存在する不気味なオアシスに響き渡り、そのギャップさが余計に奇怪さを醸し出すのだ。 しかし、今はアラクネの歌声よりも、周りの不気味なオアシスの景色よりも気になる事があった。煮えたぎるマグマのような泡がたつ紫色の泉から現れた【お人形さん達】____。 その【アラクネのお人形さん達】の姿を一目見ただけで、僕はあまりの驚愕に目を丸くしたまま泉の中に釘付けとなってしまう。ゆっくりと、まるで僕が驚いているのを愉快だといわんばかりに時間をかけて泉の中から頭を出した【アラクネのお人形さん達】は僕もよく知っている見た目をしていた。 というよりも、二つの頭を持っている【お人形さん達】は___僕と想太の顔そのものなのだ。唯一、僕そっくりな顔は両目を開けているが__想太そっくりな顔は両目を閉じていて眠っているような見た目をしている。 「さて、と___ふふ、懐かしい弟ソウタの顔を見れて感激しちゃったかしら?でも、まだまだこれからよ……あたしのお人形遊びは___これからが佳境なんだからっ!!あなたは____ううん、あなたたちお仲間も含めてだけれど……このこに勝てるのかしらね」 そう言い終えてから再び歌い始めたアラクネの声量が__徐々に、徐々に大きくなっていく。やがて、それは呆然として泉の中に釘付けとなっていた僕が両耳を塞いでしまうくらいの大声となり__それに呼応するかのように泉の中から現れる【アラクネのお人形さん】も全体を露にしていく。 ザパッ…… 勢いよく泉から出てくる水音をさせつつ、全体を露にした【アラクネのお人形さん】の見た目は、僕と想太そのものの双頭と胴体は赤い獅子__そして、ダイイチキュウにいた蠍の尾っぽという、とても奇怪な姿なのだった。 『ほら、これが__マンティコア……あ、でも……この頭はボクと優太のものに変えちゃったから明確にはマンティコアじゃないかも。でも、胴体は赤いライオンだし__尾っぽは蠍だから……』 ふと、頭の中に昔二人で笑い合いながらお絵かきしていた頃の記憶が甦り__僕は久しぶりに弟の想太の事を思って涙を浮かべてしまうのだった。

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