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ようこそ、あたしの【オアシス】へ④
「い……っ……!?」
しかし、そんな想太との微笑ましいやり取りの大切な記憶も__すぐに僕の頭から消え去ってしまう。
それと同時に、今まで何の行動もせずに微動だにしなかった【アラクネのお人形】__僕と想太の双頭を持っているマンティコアが何十本もの鋭い針のような形状の棘がびっしりと生えている尾っぽを素早く振り動かし、敵意を剥き出しにして攻撃をしかけてきた。
矢のように勢いよく僕の腕に飛んできたそれは____おそらく毒針なのだろう。僕の腕に突き刺さった瞬間、その箇所が青紫色に腫れたかと思うと、まるで火傷した時に感じるような熱さを帯びた鋭い痛みが僅かとはいえ襲ってきた。
しかし、その直後____何事もなかったかのように唐突に腫れも火傷の時に感じるような熱さを帯びた痛みもスウッ……と消え去ったのだ。それが、あまりにも不自然で驚きながらも慌てて腕がどうなっているのか確認てみた。
腫れも、青紫色に変化したという事実などなかったといわんばかりに、僕の腕に異変などなく、『先程の双頭のマンティコアの攻撃は何だったのだろう__』と疑問を感じると同時に不安も抱いていると、ふいに今度は腕ではなく耳に違和感を覚える。咄嗟に耳を塞いでしまったのは__その違和感があまりにも不快で耐えきれなかったせいだ。
まるで、耳の中に小さな生き物かナニかがいて__乱暴に暴れ回っているような違和感。
しかも、それと同時にダイイチキュウでも経験した、水が耳の中に詰まってしまってツーンとしているような――そんな感覚が僕を襲っているのだから此方としては堪ったものじゃなかった。
と、その時___耳の中からナニかが勢いよく飛び出たかのような感覚に陥って、それっきり不快さを伴っている耳の違和感もピタリと止まった。
「____あら、ありがとう。ユウタの大事な記憶を奪ってきてくれたのねっ……さすが、あたしの子【マンティコア】の一部だわ……どれどれ、うーん……この記憶はいらないわ……っ……ソウタにあげる……でも、ユウタの命までは奪っちゃダメよ?ああ、それと__【あのコの記憶】があたしの手に入るまで攻撃を続けてちょうだい」
双頭のマンティコアの尾っぽからびっしりと生えている棘が、ハリガネムシのような動きで素早く僕の方からアラクネの方までクネ、クネと移動していくと、悠然と紫に腐色しているヤシの木の枝にぶらさがりながら鼻歌を歌っていたアラクネに青白く光を放つ玉を渡した。
アラクネは何十本もある足を器用に操って、それを受け取るとマジマジと眺めてから__【双頭のマンティコア】の想太の方へ向けて、それを放り投げるのだった。
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