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ようこそ、あたしの【オアシス】へ⑤

マンティコアの双頭の【想太】の方が鋭い牙を剥き出しにしながら、アラクネによって放り投げられた青白い玉を勢いよく飲み込むと___そのままムシャムシャ、バリバリとまるで飴を食べる時みたいに鋭い牙で噛み砕きながら豪快に飲み込む。 すると、 「……っ…………!?」 ザシュッ…………という音をたてつつ、マンティコアの【想太】の頭の方の大きく開かれた口から青白く光輝く矢が此方へと向かって放たれた。今まで敵意を剥き出しにしてこなかったマンティコアが急に攻撃してきた。そのせいで、油断しきって佇んでばかりだった僕は回避が遅れてしまったため青白い矢は左腕に突き刺さってしまう。 不思議な事に血は出ていない____。 そして、痛みもさほど無い____。 けれど、僕がその青白い矢を何とかして抜きとろうとした時、突き刺さっている部分が糸ノコギリの返し刃のようにギザギザになっていて中々抜きにくい事に気付いた。 痛みがない事に安堵していたものの、中々抜きにくい青白い矢に苦戦している最中__僕は新たな異変に気付いてしまう。 再び、マンティコアの【想太】の頭が__此方へと向けられニイ、と愉快げに微笑んだ。【僕】の頭の方は一時、巷で流行った口裂け女のように口角を引き上げつつゲラゲラと不快に笑うばかりで攻撃を仕掛けてこようという素振りは見せないものの、逆にその異様な態度が僕の不安感を増長させてくる。 いや、むしろ____それよりも重大な異変というのは、かつて想太と遊んでいた時の記憶が徐々に薄れかけていき確実に僕の頭の中から消え去っているという事だ。 それと平行して、マンティコアの【想太】の方の頭にも大きな異変が起きる。目や鼻、それに口といったパーツがモザイクがかかっているように曖昧になっており、もはや誰なのか__そもそも人間の顔なのかさえも認識出来ない。 それを嘲笑うかのように隣にいる【僕】の頭部を持つマンティコアの不快な笑い声が激しくなり、大切な家族との記憶を失いつつあるという精神的に辛くなる攻撃を受けて追い詰められて涙ぐむ僕の脆い心を更に追い詰めていく。 時間が経つにつれ、どんどんと【僕と想太との大切な記憶】は失われていき、時間が経っているにも関わらず尚も抜きとれない腕に突き刺さっている青白い矢を半狂乱となってがむしゃらに引っこ抜こうとしている僕の方に__冷酷にも次の矢が放たれてしまう。 「____優太、しっかりしろ……っ……!!」 ふいに、泉の中から愛する誠の声が聞こえた。 泉に漂うアラクネの【お人形たち】の引きずりを蹴散らしながら、愛する彼が僕を救おうと這いずっている様が見えたものの、急に現れた乱入者によって僕は抱き止められ空に舞うのだった。 「鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をして__いったい、どうしたのかな?ええっと……ユウタくんだったっけ?アラクネちゃんに、ずいぶんといじめられたみたいだね?でも、安心して……何とかしてあげるよ」 「こ、金野……力……?ど、どうして__此所に!?ナギは……どうしたの?」 急に現れた乱入者___それは、憎らしい程に穏やかで尚且つ愉快げに微笑みかけてくるアラクネの主人――【金野 力】なのだった。

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