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アラクネとの戦い①
僕が唐突に現れた【金野 力】という乱入者からお姫様抱っこの体制で抱き止められ、空中に舞い上がった事により、標準を定めて此方に向かっていた青白い光を放つ矢は腐敗しきって毒々しい紫色に変色しているヤシに似た木の太い幹に突き刺さって吸い込まれるようにしながら砕け散った。
唐突にどこからか現れ、マンティコアの大きな口から放たれる青白い矢の次なる攻撃に為す術なく情けなくも佇む事しか出来なかった僕の体を抱き止め颯爽とのたまう【金野 力】____。
はっ、と我にかえって己に起きた状況を頭の中で整理した僕は改めておそるおそる本来ならば敵である筈の【金野 力】の様子を観察してみる。見れば見る程に、奇怪な格好をしているのが分かる。
漢服という古代中国の伝統的衣装を身に纏っている。その生地は金色がほとんどを埋め尽くしており、帯に黒と赤が使われているくらいだ。
奇怪なのは、その服装だけではない。【金野
力 】の頭上には常に乗せてある筈の金色の冠の代わりに片手に収まる程の金の玉が浮いていて、しかもどのような仕組みになってるのかは分からないけれども背中から金色の玉よりもきらびやかに光り輝く黄金の羽が生えている。
古代中国人の伝統衣装である漢服を纏っている事を除けば、まるで天使のようだ。にこ、にこと穏やかに微笑みかけてくるその表情が尚一層__僕にそう感じさせた。
「リ……リッくん___そのお人形さんじゃない方のユウタじゃないけど、どうして此所に!?あたしに任せてくれるんじゃ……っ……」
「____任せる?あれれ、俺の耳が詰まっちゃったかな?アラクネちゃん、君の事は可愛いとは思うし大切な仲間だとも思ってはいるけれど――勝手にこのゲームを不公平にさせるのはいただけないね。お仲間から優太くんを離れさせて一人にするだけじゃなく、こんな卑怯な形で追い込むなんて、楽しくないじゃないか。どうせやるなら、フェアじゃなくちゃ……と、いうことで……さあ、目覚めの時間だ。ああ、誠くんは自力で目覚めたみたいだね……真実の愛ってやつかな?」
僕を精神的攻撃で追い込んだ【アラクネ】さえも、唐突な乱入者であり主人でもある【金野 力】の出現は予期しない事だったらしく慌てふためきながら尋ねようとした。しかし、そのアラクネの震える言葉を途中で遮り__【金野 力】は低く力強い口調で淡々と言い放つ。
バサッ……と【金野 力】は背中から生えている神々しい両翼を一振りさせる。その途端、パラパラと金色の美しい羽根がマグマのようにブクブクと毒々しい色の泡を吹き出している泉へと降りかかっていった。
やがて、自力で泉から這い出てきた誠以外の仲間__引田、ライムス、ミスト、サンが勢いよく泉の中から顔を出す。彼らはほぼ一斉に泉から這い出ると、スライムであり状態以上は効かない)ライムス以外、毒状態に陥ってしまっているのを自覚したのかミストが毒を回復させるための魔法をかける。
僕は、ホッと安堵しながらその様子を空中から見つめていたのだけれど__ふいに、顔の辺りに気配を感じて慌てて振り向いた。
ちゅっ…………と音をたてつつ【金野 力】唇に吸い付かれた事に混乱しつつも、体を捕らえられていて碌に抵抗すら出来ない僕はいつ誠に見られてしまってもおかしくないこの状況に動揺を隠せないとはいえ咄嗟に目を瞑ってしまうのだった。
僕には【金野 力】が何を企んでいるのか、さっぱり分からない____。
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