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アラクネとの戦い②
「おい、今すぐ優太を離せ!!この……ダイイチキュウから逃げた臆病者が……っ……!!」
「ん……ああ、そうか__確か君は優太くんの恋人だったっけね~。安心しなよ、君の大好きな優太くんを奪い取るつもりはないよ――俺はとある人に骨抜きにされているからね。俺に嫉妬した所で無駄にエネルギーを消費するだけだよ。それに、俺の目的は他にある……嫉妬しているのは君だけじゃない。もっと、周りを見てみたらどうかな?さあ、このゾクゾクするくらい愉快なゲームを再開しよう!!彼らの事は頼んだよ、アラクネちゃん!!」
パチンッ……
と、まるでオモチャを与えられた子供のように心の底から楽しんでいるような愉快げな声色で言い放ちながら軽快に指パッチンをした【金野 力】____。
その途端、油断していると浚われてしまうのではないかと思うくらいに強烈な竜巻が吹いて、地上にいる僕以外の仲間達を襲う。しかし、機転をきかせたミストが咄嗟に低級防御魔法を発動したおかげで仲間が離ればなれになり吹き飛んでしまうという最悪の事態は免れたようだ。
「う、うわぁ……っ……!?」
しかし、他の仲間の事ばかり気にしていられない事に間抜けな僕はようやく気付く。竜巻が襲ってきて暫くしない内に、風に舞う砂粒のようにふうっと消え去った【金野 力】____。今まで僕の体を抱き止めながら空中に浮かんでいた奴の存在が綺麗さっぱりに消え失せたという事は__それすなわち、僕の体は真下(地上)に向かって落下していくという事で、このままでは地面に叩きつけられてしまうか__またはボコ、ボコと泡音をたてつつ不気味さを醸し出している毒々しい泉の中に落ちてしまうというという最悪の未来が待っているという事だ。
「優太、大丈夫だ……っ……今度こそ俺が____抱き止めてやる!!」
「ま、誠……っ……誠___大好きだよ!!」
その言葉通りに誠は真上から落下してくる僕の体を何とか受け止めてくれ、その後____仲間達がジトーッとした目付きで此方を見てくるにも関わらず僕と誠は熱い抱擁を交わした。
しかし、その幸せのひとときは長くは続かない。
凄まじい怒りと呆れ、それに途徹もないくらいの恨めしさがぐちゃぐちゃち混ざっているかのような複雑な表情を浮かべつつ、此方を眺めているのは__何も僕と誠の仲間達だけじゃない。
アラクネの血眼が毒々しい泉の中から僕ら一行に針のように鋭く突き刺さる。それは、この状況でイチャついていた僕と誠に対して呆れつつも割と好意的な視線を向けてきた仲間達とは裏腹に好意的な感情など一切感じさせないような邪悪な視線でアラクネが僕ら一行に対して【悪意】しか感じていない証拠だった。
「下らない____下らない……っ……あんた達は、あたしの大切な仲間を奪っておきながら、あたしがリッくんに怒られるなんて……っ……絶対に許さないわ!!あんた達の命は奪えないけど__死にたいって思わせる程の苦痛を与えてあげる……っ……せいぜい苦しむがいいわ!!」
バシャッ……
アラクネの複数ある足のうち、一本が毒々しい泉の中からヌウッと出てくる。
そして、
トン、トン__トン……
リズムよく足で紫色に変色したヤシの木の幹を叩く。すると、辺りに影がさして、ほぼ一斉に僕ら一行は【アラクネ】が叩くヤシの木のてっぺんへと目を向ける。
木のてっぺんには、いつの間にか巨大な極彩色の羽と尾を持つ【魔鳥】が僕らを見下ろしていて、けたたましい鳴き声を響かせて敵意を露にするのだった。
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