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アラクネとの戦い――の筈が異常事態発生①
五彩七色にゆらめく長い三つに分かれている尻尾――それに両翼はまるで炎が燃えさかっているかのような特徴的な形をしており、くちばしは猛禽のように鋭い。頭部に生えている冠羽は真っ白くきらめいていて金色の胴体によく映える。また、上半身は孔雀によく似た姿をしているが下半身はライオンによく似ていて足先からは鋭い爪があるのが分かる。
頭部、それに尻尾や両翼を含む上半身は孔雀のような五採七色で、胴体は金色――しかし、下半身はライオンというチグハグな印象を持つ巨大な乱入者の強烈なインパクトを目の当たりにした僕らは揃いも揃って唖然とするばかり____。
「なっ……サエーナ鳥だと……っ……!?くそ、どうしてこんな砂漠のオアシスに……それもこれも、あの忌まわしい蜘蛛女の仕業か!?」
【ふふっ……そうよ、まずは、この魔鳥とも言われてるこの子とお遊戯してちょうだい!!もしも、この子に一泡吹かせる事が出来たら――そしたら、あたしが直々に……あなた達のお遊戯のお相手をしてあげるわ!!それじゃあ、せいぜい頑張って~。】
木の枝にぶら下がり、自由自在に金糸を操りながら愉快げに言い放ったアラクネは――余裕綽々といった様子で【毒々しい泉】の中へと潜って行ってしまう。
一足早く若干の冷静さを取り戻したサンの声が辺りに響き渡る。手には既に弓矢を構えて標準を《サエーナ鳥》と呼ばれたチグハグな印象の巨大な魔鳥へ向けている。
サエーナ鳥という存在を初めて知る僕(おそらく誠と引田も)にとって、サンが何故そこまで狼狽しているかが分からない。すると、頭の中が疑問符で埋め尽くされている僕にコソッとミストが耳打ちしてくれる。
『サエーナ鳥っていうのは本来とても神々しい存在で幸福を与えてくれるんだよ__でも、本来ならジメジメしてる湿地にしか存在しないはず……このアラクネが支配してるオアシスにいるってことは、サンが言う通りアラクネの産み出した紛い物の魔鳥だ。つまりね、ミストが言いたいのはアレがどんな攻撃をしてくるか分からないってこと……現にユウタの記憶の中にも覚えはないでしょ?気を引き締めて……攻撃に備えて___』
ミストにそう囁かれて気が付いた____。
先程、アラクネが仕向けたマンティコアの精神攻撃によって奪われてしまった《幼い頃の想太との過去の記憶》が蘇っている事を__。
そして、その《大切な過去の記憶》の中に__《サエーナ鳥》という存在すらなかったといつ事を__。
ミストの言う通り__これから、アラクネが産み出した《サエーナ鳥》がどんな攻撃を仕掛けてくるのは皆目検討もつかない。敵に対して碌な予備知識すらないというのはそれだけで不安を抱いてしまう。情けない事に体は震え__その緊張から口がカラカラに渇いてしまう。
ふと、そんな僕らの不安と恐怖を察知したといわんばかりに真上からアラクネが産み出した《サエーナ鳥》が鋭い蛇のような目付きでジロッと赤と金が混じった瞳で威嚇してきた。
そして、その極彩色の両翼を勢いよく羽ばたかせるのだった。
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