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アラクネとの戦い――の筈が異常事態発生②

《サエーナ鳥》が羽ばたいた途端、真上から何か僕らの頭の上に落ちてくる。柔らかい物もあれば霰みたいに固い物もあり、その理由を知るために慌てて目線をそちらへと向けた。 柔らかい物は極彩色なため抜け落ちた《サエーナ鳥》の羽だと理解したけれど、羽と共に落ちてきた固い物の正体が分からない。ただ、小さな黒い物だというのはパッと見ただけとはいえ分かった――。 そして、僕らの頭の上に落ちた後は地面に落ちてしまったため、身を屈めて手を伸ばしておそるおそる正体不明のそれを取ろうとした。 しかし、 「優太くん……っ……今すぐそれから離れて……っ__それ、何か変だ!!」 「えっ…………!?」 と、引田の鬼気迫る叫び声を聞いたせいで僕は慌てて手を引っ込める。引田の言う通り、異変はすぐに起きた。 先程までは土しかなかった地面から__徐々に植物がにょきにょきと生えていく。しかも、ダイイチキュウで見慣れていた単なる植物という訳ではない。黒と赤の斑模様のカサを被り、戸惑う僕らをおちょくるように自ら動き回る人間みたいな行動をとるキノコ__頭部は甘い芳香を放つ桃色の美しい花にも関わらず胴体が全部粘液まじりのうねうねとしている気持ち悪い緑色の職種に覆われている今まで見た事のないような奇怪な植物などが《サエーナ鳥》が羽ばたいて何かを落とした途端に続々と現れ__あまりにも急な事で対処出来ずに戸惑いを隠せない僕らの周りをあっという間に取り囲むのだった。 ◇ ◇ ◇ 『キノコみたいな形をした魔物は村人たちから《アルキノコ》と言われてるんだって__』 『え~……アルキノコなんて変な名前の魔物もいるんだね。もっと格好いい名前の方がいいのに……って想太……もしかして____』 『うっそー……もう、優太ったら簡単に騙されるんだから__このキノコの名前はウィスパーマッシュ__攻撃方法はね……』 かつて想太と絵本を開きながら、和気あいあいと話していた時の様子が頭によぎる。しかし、いつも肝心な所で__消えてしまう。 ある思い出が浮かんでは、消え___浮かんでは、消えてという繰り返しだ。 『この緑色のウネウネしてるのは?何か__気持ちわるーい……虫みたい』 『これは__モルボル……さっきのウィスパーマッシュよりも危険だよ。くさい息を吐くから__それに、くさい息を一度嗅いじゃったら__大変な事が起きるんだ……優太なんて美味しそうだからパクパク食べられちゃうかもね』 『うえ~……余計に気持ちわるいよ……想太__じゃあ、この卵みたいな形のキノコの魔物は__』 『これは__アスコモイド……基本的には群れをなさない湿地に棲みかをつくるキノコの魔物だよ。飛んでくる胞子が危険なんだって……』 と、僕が昔の想太とのやり取りに思いを馳せていた時__、 「優太、危ない……っ__!!」 誠の慌てふためいている大きな声が僕の耳に届いてハッと我にかえる。いつの間にか【モルボル】の粘液に覆われた緑色の触手が鞭のようにしなやかに__そして素早くボーッとして突っ立っていた僕の方へと飛んできていて急いで後退りしようとする。 しかし、あとちょっとの所で間に合わなかった___。 僕の体に【モルボル】のうねうねと蠢く緑色の粘液まじりの触手がねとり、ねとりと纏わりついてきて嫌悪に顔を歪めてしまう。必死で抵抗を試みてみたものの、緑色の触手はビクともしない。 そんな僕らの様を見て、木のてっぺんで見下ろしてくる《サエーナ鳥》はカナリヤのように美しい声で鳴きながら__この上なく愉快だ、といわんばかりに獅子の足で軽快にステップを踏むのだった。

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