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アラクネとの戦い――の筈が異常事態発生③
「うう……っ……くっ……」
どんなにもがいてみても、緑色の触手はがむしゃらに抵抗したせいで疲れを蓄積し始めた体から離れてはくれず__それどころか、徐々に僕の身に異変が襲ってくる。
【モルボル】の頭部にある桃色の花から漂う濃厚な芳香のせいかは分からないけれど、次第に頭の中がポーッとしてきて増えすぎて辺り一帯を埋め尽くす程の【ウィスパーマッシュ】の群れと戦っている仲間たちの様子の事など考えられなくなってきてしまう。
正直に言って、【モルボル】の緑色の粘液にまみれた触手に囚われている僕には__そんな余裕さえなかった。
ヌリュ、ズリュッ…………
「あっ……く、口に……っ__入れないでぇ……っ……」
僕を体のいい獲物だと認識した【モルボル】が粘液まじりの触手を口に無理やり捩じ込み、かろうじて残っていた生理的な嫌悪感をあらわにしている口腔内を好き勝手に犯してくるから尚更だ。
『くそ……こいつら__倒しても、倒しても制限なく仲間を増やして復活してくるぞ……ミスト、お前の魔法でどうにか出来ないのか……っ……』
『まさに、今……それを考え中。これ程の量のウィスパーマッシュが復活してくるには何か理由と対処方がある筈なのも分かってるよ。でも、とりあえずはヤツらの攻撃から逃げるのに精一杯だよ!!』
『そ、それもそうだけど__優太くんも早く助けないと!!木下誠、何をふざけてんの?早く優太くんを……って――何これ、防護壁みたいなのに囲まれて優太くんに近づく前に跳ねかえされるじゃないか……っ……!?』
粘り気のある【モルボル】の緑色の触手に体をぎし、ぎしと音がしそうなくらいに強く拘束され、ひときわ太いものによって目隠し状態にされてしまった途端に目の前が真っ暗くなっていき__次第に僕の目には墨汁のような闇しか映らなくなってしまう。
仲間達が苦しそうに話す声だけが僕の耳に届くのだけれど、その様子さえまったく見えなくなってしまった事で動揺しきってしまい今や今まで必死で抵抗していた体から力が抜けていき__どんどんと脱力してしまっていく。
その間にも【モルボル】の締め付け攻撃は続き、ひときわ太い触手によって目周辺を覆われているせいで、ネバネバした粘液が頬や鼻を伝い落ちていき__やがて半開きとなり情けない声を漏らす口の中に何本もの触手が一斉に浸入してくる。
「んっ、うっ__やぁ……っ……あんっ……」
ひときわ太い触手が、ようやく目から外されて光を取り戻した時には既に僕の体や顔は【モルボル】のぷくりと膨れあがった触手の先端から発射された白濁液まみれとなっていて、ポーッとした表情を浮かべながらそれを舐めまくる廃人同様の姿となっていた。
「あ、あんっ……これ__凄くおいしいのぉ……もっと……もっと、ちょうらい?」
自ら複数の触手の先端から溢れ出てくる白濁液を舐めまくり、激しく腰を振りつつ、まるで犬のように【モルボル】へと身をすり寄らせる僕の姿を見た仲間達は__絶望したに違いないだろう。
しかし、この時既に僕は【モルボル】の触手攻撃によって異様な状態となっていたのだ。
ひときわ太い触手が両目から外されて光を取り戻したはいいものの__僕の目には大切で堪らない筈の仲間達の姿はもはや映っていなかった。
触手攻撃によって精神を犯されていた僕の目には、大切な筈の仲間達の姿が此方へと敵意をあらわにしている恐ろしい魔物達に見えてしまっているのだから___。
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