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アラクネとの戦い――の筈が異常事態発生⑤
『木下誠____わかってると思うけど、この作戦はタイミングがとても重要だ。それに、何よりもミストをあのキノコ野郎達から守りきる事が大切。はい、堅物エルフのサンには矢があるけど、ぼくらには武器がないから、これで応戦してて。いい、絶対に__くたばらないでよ……っ……」
誠は【モルボル】に囚われの身となり《融合変化魔法(ミストから教えてもらった)》と呼ばれる触手攻撃を受けている最愛の優太を救う作戦を決行するべく――その直前に、つい最近まではライバル的存在だった筈の引田からぶっきらぼうに囁かれたのを思い出す。
ぶっきらぼうながらも、真剣な様子で引田から手渡されたのは――おそらく彼がダイイチキュウで過ごしていた時から持っていたであろう護身用の小型ナイフ___。
それを握り締めながら、誠は愛しい優太と仲間を救うべく__優太が囚われの身となっている防御壁の内側ではなく外側にいる此方の異変に気が付いたせいで僅かに狂暴となり、けたたましい鳴き声をあげながら硝子みたいな防御壁などお構い無しといわんばかりにすり抜けて飛びかかってくる【ウィスパーマッシュ】の群れを凪ぎ払う。
とはいえ、たとえ小型ナイフによって真っ二つにその身を引き裂かれようともすぐに分裂__あるいはトカゲの尻尾のように再生してしまうこの上なく厄介な【ウィスパーマッシュ】の群れを相手にするのはダイイチキュウの学校で運動部に入っていた誠でさえも、かなり辛く手を振り上げてから下ろすという動作をする度に腕がまるで石になってしまったような感覚を抱いてしまう。
「εεωЗжИе§Эωш__οωο……ωωυ―фжφ……」
しかし、小型ナイフとカッターで【ウィスパーマッシュ】の群れに応戦している誠と引田__そして少し高い場所から弓矢を降り注いでいるサンは、ミストがこれから作戦に使用する魔法の普段よりも明らかに長い詠唱を言い終えるまで攻撃の手を止める訳にはいかないのだ。
「……§§§ж……οфИεОωφ____バロメッツ……!!」
と、ミストが普段よりも長めの詠唱を終えた途端――ジメジメとしている土に杖の末端をドスッと勢いよく突き刺した。地面に亀裂が走り、【ウィスパーマッシュ】の群れの何体かは裂け目へと落ちてゆくものの――全部とはいわず相変わらず苦戦中のままだ。
しかし____、
『ン、ンメ……ェェェェッ~……メェェェッ~……!!』
何体かの【ウィスパーマッシュ】が亀裂へと落ちていった直後、裂け目の中から茎は焦げ茶色で属に対生というつきかたをしている黄金色の葉っぱはシダによく似た形だ。何よりも目を引くのは上半分で――正にダイイチキュウでも見た事のある羊がチョコンと横向きで乗っかっている。本来であれば見事な花が咲いていてもおかしくはない場所に綿菓子みたいに真っ白に膨らんで気の抜けた鳴き声を発している羊が存在しているという今の状況は、かなり異様な事だと――かつてダイイチキュウで暮らしていた経験のある引田は思ってしまった。
「バロメッツ____ОΕЗЗφЁ§фξТ!!」
更に、ミストが立て続けにその《バロメッツ》と呼ばれた羊植物に向かって【巨大化魔法】を懸けたのだから___未だに襲ってくる【ウィスパーマッシュ】の群れに対して攻撃の手を止めずとも、驚きを隠せなくなってしまうのは尚更の事なのだった。
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