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アラクネとの戦い――の筈が異常事態発生⑧

誠が後ろから着いてきたライムスにようやく気づき、互いに何も言わないにも関わらず意思疎通をしたかのような絶妙なタイミングで【モルボル】に向かって攻撃をくらわせる。 とはいっても【モルボル】に直接攻撃をくらわせたのは小型ナイフの両手で握りしめて物理的にダメージを与えた誠だけれど、ライムスが誠の足元にちょうどいいタイミングで潜り込まなければ――そのまま勢いよく踏み込んで体育の跳び箱の踏み台を踏んだ時のように高く跳躍出来ず、【モルボル】の弱点に誠が気付く事はなかっただろう。 スライムというライムスの特殊な身体的特徴を理解した上で、誠は高く跳躍し、真正面ではなく真上から見つめて観察したその結果__【モルボル】の弱点を見つけ出す事が出来たのだ。 【モルボル】の弱点___それは、真正面から見ただけでは見つけ出す事さえ困難な場所にあった。桃色の花弁に守られているかのように中には人間の目玉にそっくりなモノが存在しているのだ。ダイイチキュウで存在している花の真ん中の丸い部分が、ちょうど人間そっくりな目玉が存在している箇所といえば分かりやすいかもしれない。 「くらえっ…………!!」 そう言い放つと誠は、両手にきつく握りしめていた小型ナイフの鋭い切っ先をその目玉部分に勢いよく突き刺す。すると、今まで真っ赤に血走ってギョロリと誠を凝視していた目玉部分が徐々に白く濁っていき、やがて白目状態となり完全に動かなくなった。 それと同時に、大小様々な目玉を生やして蠢い きながら優太を捕らえていた複数の触手も動きを止める。その様子を目の当たりにして安堵した誠だったが、完全に動きを止めて仕留めたと思っていた【モルボル】が急に触手をばたつかせながら不気味な断末魔を辺り一帯に響かせる。 「優太……っ__!?」 「ま、誠……っ……僕の事はいいから……早く逃げ____」 【モルボル】が断末魔をあげつつ触手をばたつかせたせいで、捕らわれていた筈の優太の体は勢いよく放り投げられてしまう。上体の半分くらいまで【モルボル化】したままの優太の体を何とか受け止めようと必死で構えた。 結果的に【アラクネ】が潜む毒の泉に落ちてしまいそうになるギリギリの所で、仲間であり大切な存在の優太の体を受け止める事が出来た。けれど、暫くの間__誠は【モルボル】になりかけのままの優太の体を離す事はなかった。 「ま、誠……助けてくれて嬉しいけど__早く僕から離れて……?そうじゃないと……もしかしたら誠までこんな姿になっちゃうかもしれない……っ……それに、こんな姿__気持ち悪いでしょ?」 「____気持ち悪くなんかない。どんな姿だろうと、お前はお前だ。たとえ、どんな姿であろうと俺はお前を受け止める……だから、少し痛いだろうが__我慢してくれ……優太、愛してる……っ……」 「えっ…………ん、んむっ……!?」 誠が未だに【モルボル化】しかけの優太の下半身で蠢いている触手に生えている、とある目玉に向けて然程躊躇なく手に持ったままの小型ナイフの切っ先を突き刺す。その目玉は小指の爪くらいの小さなもので優太には何故、愛する誠がそんな事をしたのかは分からなかった。 だが、その理由は少ししてから分かった___。 【モルボル化】しかけた優太が小型ナイフを触手に生えている目玉に突き刺した衝撃からくる痛みと不安からパニック状態に陥らないように__誠は深いキスをした。 その思いを受け止めた優太は何も言わず__誠の【真実のキス】にされるがままとなる。 そして、それから徐々に眩い青白い光に包まれながら優太は元の男子高校生だった人間の姿へと戻っていくのだった。

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