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アラクネとの戦い③
「くっ……くそ……____どこまでも忌々しい蜘蛛女め……っ……!!」
サンは弓矢攻撃を止めざるを得なかった。
どんなに【アラクネ】の胴体や金糸に狙いを定めて弓矢を素早く、風をきるように勢いよく放っても、全て弾かれてしまい__毒の泉に吸い込まれるようにして落ちていってしまうのだ。
しかも、厄介な事に【アラクネ】の金糸には伸縮性があり、それを自由自在に操りながら困惑しきってしまっている僕らに体当たり攻撃を仕掛けてきたり、ミストが【アラクネ】の胴体に向かって爆発魔法や火球魔法を放つと__その度に両脇に貼り付けた金糸の束を伸縮させて毒の泉の中へと潜んで攻撃を避けてしまう。
攻撃を加えるチャンスさえないという今の状況は__【アラクネ】の独壇場となり、かなり不利な状況だった。しかも、そんな手も足も出せずに若干パニック状態に陥ってしまっている僕らの様を嘲笑うかのように、まるで舞台に立っているスターさながら自分に注目しろといわんばかりに微笑みかけてくる【アラクネ】は攻撃を仕掛けてくるのだ。
真っ黒な口紅が塗られた美しい口元からは金糸の繭を吐き出す。当たってしまっただけで、爆発を引き起こす危険な糸繭のため僕らは当たらないように逃げるだけで精一杯だ。
と、地に落ちて爆発しきった糸繭の中から__何か得たいの知れないものが出てきた。その得たいの知れないものはどこかで見たような覚えがあり、僕はそれに見いってしまっていたせいで真上から飛んでくる【アラクネ】の糸吐き攻撃に気付いていなかった。
「ゆ、優太……っ___ぼーっとするな!!おそらく、あの糸をくらったら__お前までアラクネの餌となってしまうぞ……っ……」
「ご、ごめん……っ……でも、どうしてもあれが気になっちゃって……ねえ、誠も__あそこの糸繭の中から出てきたあの子達に……見覚えない?」
真上から飛んでくる【アラクネ】の攻撃が当たらないように咄嗟に僕の身をドンッと横に突き飛ばしてくれた(もちろん加減しながらだ)誠に感謝しつつ、先程からどうしても気になっていた《地に落ちて爆発し終えた繭の残骸から出てきたもの》について彼に尋ねた。
「あ、あれは……っ……!?」
「やっぱり……誠にも見覚えがある?」
「ああ、あれは……雪が降りしきる森の中で出会った三人娘じゃないか。たしか、キッコだか、ノッコだかなんとかいっていたな__だけど、何故――今、この場に急に現れ……た……」
僕も誠も___ほぼ同時に言葉を詰まらせつつ、その地に落ちている繭の残骸から出てきた【キッコ】【ノッコ】【コッコ】から目を離せなくなってしまった。
かつて、雪の降りしきる森の中で出会った彼女らと同一人物とは思えない程に異様で不気味な姿と成り果てており、尚且つ獲物を見つけたといわんばかりに真っ赤に光る六つの目玉で此方を蛇のような鋭く恐ろしい目付きで睨み付けているのだった。
明らかに、可愛さを失ってしまった彼女らは__敵意を剥き出しにしている。
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