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アラクネとの戦い④
変わり果てた【三人娘】は戸惑うばかりの僕だけに狙いを定めて、素早く攻撃を仕掛けてきた。
フルーツのような香り__ダイイチキュウでいえば苺のような、はたまた桃のような――とにかく甘い息をフゥーと僕へ向けて放ってきたのだ。
【三人娘】の恐ろしく不気味な見た目に反して、甘いその香りを吹き掛けられてから少しした後に僕は目がライトを間近に浴びた時みたいにチカチカして__尚且つ目眩を覚えてしまう。しかしながら、目眩は立っていられない程の不調という訳でもないし、目の不調はギュッと固く潰った後、少し経ってから、割とすぐに回復した――かのように思えた。
目の不調を回復させようと固く潰って再び開けた時__目の前には意外な光景が広がっていた。
ダイイチキュウにいた時の学校で何度も見た景色____。
肌に纏わりつくモヤモヤとした湿気を帯びている熱気__。
パシャ、パシャと波打つ水の音__。
先生が合図する喧しい笛の音__。
クラスメイト達の『この年にもなって水泳かよ』と嫌がる声___。
今、僕の目の前にある光景はダイイチキュウにいた時に受けていた水泳の授業そのもののものだった。
大事な仲間であるサンとミストとライムス__それに、もちろん敵である【アラクネ】や【サエーナ鳥】――【ウィスパーマッシュ】や【三人娘】は存在しない。
その時____、
『おい、優太……早くこっちに来い!!そんな所で突っ立ったまんまじゃ授業出来ないぞ』
皆からサカセンという愛称で呼ばれてる坂本先生の活気ある声が辺りに響く。そして、それと同時に楽しげにはしゃぐ他のクラスメイト達の声も響く。
『ったく__ドン臭いやつ。とっとと、こっちに来て……授業受けろよ』
一人だけ、ふてくされたような表情を浮かべつつボソッと呟いたのは――かつて、僕を苛めてた青木の姿。
ミラージュに来る前までは、何て事のない光景が全て懐かしく感じると同時に心地よいとさえ思ってしまう。しかし、それでもまだプールに入るべきか入らないべきか迷って突っ立ったままの僕に__またしても懐かしい存在が声をかけてくる。
『優太__早くこっちに来なよ!!大丈夫、優太なら泳げるよ……ボクと誠が助けてあげるから――ほら、早く!!』
『優太……早く飛び込め__俺がお前を受け止めてやるから……っ……』
世界中で僕が大好きな《想太》と《誠》から朗らかに声をかけられ、今まで物怖じしていたけれどもなんとか勇気を振り絞ると__そのまま、ゆっくりとした足取りでプール際にある飛び込み用のスタート台へ向かって歩いていく。
その間にも、プールにいるクラスメイト達や坂本先生__そして、青木や大好きな《想太》と《誠》に誘われて自然と急ぎ足になっていく。
そして、飛び込み用のスタート台へと足を乗せて眼下に広がるプールを水面を覗いた後で__僕は緩く波打つ水面へと勢いよく飛び込むのだった。
僕の体は深く、深く水中へと沈んでいくばかり____。
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