536 / 713

予期せぬ結末、そして再会の時①

サンは思いがけないミストの言葉を聞いて少しだけ狼狽したものの、その時の彼の剣幕が本気だと物語っていたため__素早く弓を構えてから矢を振り絞る。 ビュッ……と勢いよく【アラクネ】の両脇に聳え立つ二本の木の内の片方__クゥ、クゥと心地良さそうに寝息をたてて未だに目覚める気配もない【サエーナ鳥】へ放った。 すると____、 【や、やめて……っ……!!】 地を震わすような__【アラクネ】の叫び声が辺りにこだまし、尚且つ今までは余裕綽々といわんばかりの傲慢で強気な態度が豹変する。サンが必死で【サエーナ鳥】に向かって弓矢を放ったのと同じように【アラクネ】もまた__無我夢中で両脇の木にはりつけた金糸を自由自在に操りつつ【サエーナ鳥】に矢を当たらせまい、と本気で妨害しようと己の身を犠牲にしてでも乗り出してきたのだ。 【アラクネ】の体は硬いので__タイミングがよければ、サンの弓矢攻撃を妨害できただろう。けれど、僅かにサンの放った弓矢のスピードの方が【サエーナ鳥】の眼前に身を乗り出しつつ庇おうとしている【アラクネ】のスピードよりも早かった。 弓矢が【サエーナ鳥】の閉じた片方の目に突き刺さる。その結果、真っ赤な血が溢れ出し苦しみに悶える【サエーナ鳥】は樹上でダンスを踊るかの如く激しく身悶える。 【ご、ごめんなさい……っ……あたしが悪かったから__それに負けも認めるから……だから、だから……この子だけは……傷つけないで……お願い……っ……】 まるで、子供を持つ母親のように__樹上までたどり着いた【アラクネ】は傷を負ったせいで悲しげな声をあげる【サエーナ鳥】に覆い被さるような態勢を取りながら、つい先程までの余裕を持って冷酷な振る舞いをしていたのが嘘のようにミスト達一行に対して謝罪の言葉を口にし始める。 ミストはその【アラクネ】の豹変に対して戸惑いをあらわにしてしまう。変わり果てた彼女の態度が、此方を油断させるような演技だとは__到底思えなかったからだ。 そして、優しいミストは動揺しきってしまい頭の中に『アラクネをこのまま消し去るのは正当な行為なのか?』『命を奪って消し去らずともアラクネに贖罪をさせる方法は他にもある』という__同情心にも似た感情が浮かんできてしまったのだ。 しかし、今まで長い時を過ごしてきて慣れ親しんだ筈の仲間であるサンの考えはミストとは違ったらしい。 「そのような言葉は通用しない……蜘蛛女よ、お前は__これまでも罪もなきたくさんの命を弄んできた。故に、己の命をもって――その罪と向き合わなければならない……それが、ダイイチキュウでいう所のセキニンというものだ。そいつがお前の子だというならば……いや、子であるからこそ共にこれまでの罪を償え!!」 そう言いながら眉間に皺をよせたサンが弓を引き、再び【アラクネ】と【サエーナ鳥】に対して攻撃の意思をあらわにした、その時だった。 突然、木が激しく燃え始める____。 最初は其れほどでもなかった赤黒い炎は、またたく間に地上から木の幹を伝っていき、てっぺんにいる【アラクネとサエーナ鳥】に向かって燃えあがっていく。 「そうそう、サンの言う通り___。罪には罰が必要。それとも、ちょっと言い方をマイルドにして__お仕置きっていうべきかな?」 「……っ…………!?」 ミストは優太へかけている回復魔法の流れを途切れさせないため、出来るだけ詠唱に集中しつつも__目線だけで、急にどこからか聞こえてきた声の主を探す。 それは、サンやミストにとって慣れ親しんだ人物の声だった。かつて、ミストやサン__それに今は敵の手中に収まっているナギを側に従えさせていたミラージュの王の息子である【チカ】のものだったのだ。 しかし、ミラージュの王子でもあり、今やミスト達の敵ともいえる【チカ】は姿を現さない____。 笑いを含んだ、その愉快げな声だけが辺りに響き渡るのだった。

ともだちにシェアしよう!