537 / 713

予期せぬ結末、そして再会の時②

「チ、チカ……様___失礼ながら、どちらにいらっしゃるのですか!?」 「あーあ、残念だよ__ミスト。賢い君ならオレが何処にいたのか……気付いていてくれていたと思ったのになぁ。でも、まあ……ミストとは付き合いも長い訳だし許してあげてもいいけど――それよりも、君らの敵であるアラクネがオレの炎で弱りきっているのに眺めていてもいいのかな__せっかく、攻撃のチャンスを作ってあげてるのに……」 チカが言うように__【アラクネ】は【サエーナ鳥】を庇うような態勢をとりながらも、先程とは明らかに弱りきっていた。そもそも、【アラクネ】は自ら負けを認めたのだから__もう、此方と戦うつもりなどないのだろう。 その時、あれだけ頑丈に木に張り付いていた【アラクネ】の金糸がチカの赤黒い炎によって溶けたせいで、今まで燃え盛る木のてっぺんにいた【アラクネ】【サエーナ鳥】もろともがバランスを崩して地上へと倒れてきた。それでも、【アラクネ】は切なそうな表情を浮かべながら【サエーナ鳥】を庇うのを止めようとはしない。 『ごめんなさい』『罪を償うから……だから、許して……』と、その言葉を繰り返し呟いている。 「そっか___君らがやらないつもりならオレが、使えなくなったオモチャ達に――お仕置きするしかないね。アラクネ、ハーピー……ふたりもろともお仕置きしてあげるよ」 「……っ…………ハ、ハーピー?」 この【アラクネ】が庇っている【サエーナ鳥】が____ハーピーだというのか。けれど、そうであるならば強気だった【アラクネ】が【サエーナ鳥】を庇うのも納得できる。 「し、失礼ながら――チカ様……アラクネの命を奪うのは……適切な方法ではないかと。しかるべき場所に幽閉し拷問するにとどめるのが最適な方法かと思います」 と、ミストが恐怖と不安を半ば強引に押し込めて己の意見を伝える。しかし、その後__予期せぬ事が起きた。 「サン……君は、どう思う?やっぱり……ミストと同じように命は奪わない?」 「チカ様、私は……私の考えは__」 と、自分と同じように戸惑いの表情を浮かべているサンに問いかけたのは、チカの声をした《コオロギ》だった。それは、砂の神殿があった《ウミス・ノナ》という砂漠の【世界】で優太にくっついていた《コオロギ》で__ピョン、ピョンと軽快に飛び跳ねつつサンの前でピタリと動きを止めると途端に赤黒い炎を纏うチカの姿へと変化していった。 「さて、と……そろそろ――この物語の主人公である優太くんがお目覚めかな。それより、ミスト__それに、サン……君らエルフ達は元々はオレと父上の配下だった存在だよね。だから、仲直りをしようよ……ほら___」 赤黒い炎を纏った少年姿のチカがニコッと微笑みながら、手を差し述べてきた。ミストもサンもそのチカの行動は予想外で、戸惑いつつ彼を真っ直ぐ見つめるしかできない。 しかし、 唐突にサンが行動に出た____。 「罰をくらえ……っ…………!!」 弱りきっている【アラクネ】と【サエーナ鳥】へ火の魔法を放ったのだ。杖を持っていてそこから魔法を放つミストとは違って、サンの場合は己の右手から直接炎を放つ。 先程のチカの赤黒い炎の攻撃よりも威力は小さいものの最終的には呻き声を出せない程に弱りきった【アラクネ】と【サエーナ鳥】に致命的なダメージを与えるには充分だったらしく__彼女達はチカの赤黒い炎とサンの真っ赤に燃える炎によって命を散らしたのだ。 最後には、燃え尽きた灰のように粉々となり__毒のオアシスに吹く生暖かい風によってサラサラと辺り一面に飛び散りながら存在そのものが消え去ってしまうのだった。

ともだちにシェアしよう!