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予期せぬ結末、そして再会の時③

※ ※ ※ パチ、パチ…… 【アラクネ】と【サエーナ鳥】が同時に消え失せた事で辺りに流れる沈黙の中で、場違いともいえる乾いた拍手が聞こえてくる。 子供がとっておきの悪戯を思いついて親を困らせてやろう、と__そんなシチュエーションの時にみせるような極上の笑みを浮かべながらチカが何度も両手を叩いているのだ。 「いいね、いいね____流石は冷静で的確な判断力を持ってて間違った事を許さないサンだ……さてと、そんなサンは__いつまでミストや優太くん達とごっこ遊びを続けるつもり?オレと手を組んで、ミラージュを支配しようよ……少し神経質な性格とはいえ、キミならオレと本当の仲間になれるはず……」 「……っ____!?」 いきなりの思わぬチカの言葉を聞いて、サンは身動きが取れなくなってしまった。遠い過去の話とはいえ、チカはサンやミストにとっては、かつては奴隷という身分だった己が【仕えるべき存在】だったのだ。 真面目なサンはそんな上の立場にいたチカの言葉を容易に無下にする事はできない、と心の中で悶々と悩んでいる。それは、固く両目を閉じて眉間を右の人差し指で抑えつつ僅かに頭を垂れているという彼の様子から見ても明らかだった。 「チカ様____私は、あなた様と……」 ようやく、サンが重苦しそうな表情を浮かべ目線をチカへ真っ直ぐ向き直して愉快げに子供じみた笑みを浮かべる彼の方へ一歩を踏み出そうとした、その時だった。 ミストやサン__それに元クラスメイトという立場であるチカとの再会という思わぬ出来事のせいで頭の中が整理しきれていないまま呆然と突っ立っている誠までもが予想だにしない事態が起こる。 「ちょっと……あんたが誰だかなんて、ぼくには分からないけど__ってか、どうでもいいけど……その堅物エルフを誘惑するの……止めてくれない?」 今まで無言のまま此方の様子を見つめていただけの引田の低い声が聞こえたかと思うと、チカの元へゆっくりと歩み寄ろうとしているサンの足取りを妨害するかのように__何かが地面へと叩きつけられたのだ。 所々、ドス黒くなっているソレは__引田が先程までいた木にぶら下がっていた元々は赤い果実で、片手で握れるくらいの大きさだが【アラクネ】の毒に侵されて腐食しているせいで変色し紫色になってしまっている。しかも、毒の影響で元々は固いものだったが、ドロドロに崩れて柔らかくなってしまっていたのだ。 引田が腐食してしまった果実を怒りに任せて地面に叩きつけたせいで、赤黒い炎を纏っているチカの体にソレの残骸がベチョッとついてしまった。 「____誘惑、ではなくて勧誘と言ってくれないかなぁ……ええっと、そういえばキミとはあまり面識がなかったよね。本来なら元クラスメイトだった筈の引田くん。えっと、ダイイチキュウでは【フトウコウ】っていうんだったっけ?ルールを守れず周りのワを乱す__メイワクモノの引田くん。キミがオレに対してそんな事をしたせいで、オレは良い事を思いついちゃったんだ……さてと、御託はこれくらいして、キミ達の【仲間ごっこ】とやらの絆の力を見せてもらおうかな__キミも協力してくれるよね、大好きな優太くん?」 体に張り付いた腐った果実の残骸を涼しい顔で払い落とすと、口元では愉快げに微笑んでいても目は笑っていないチカがすれ違いざまに引田を鋭く一瞥してから__今度は未だに横たわっていて苦しげに息をしている優太の方へと歩んでいく。 ミストの回復魔法を受けているとはいえ、とても苦しそうな様子の優太を覗き込むと身を屈めるチカ____。 「チカ様……ユ、ユウタに何を……っ__!?」 「ん~……やっぱり賢いミストの魔法とはいえ万能じゃないね。ほら、見てて__こういう時はね、こうするのが一番なんだよ?」 そう言い終えると__チカはそうするのが当然だ、といわんばかりに己の唇を優太の唇へと押し当てて口付けする。しかし、単なる口付けではない。ダイイチキュウでいうところの【人口呼吸】を優太に施したのだ。 「ん……っ____ま、誠……って……ち、知花……っ……そんな、どうして……っ?」 「そんなどうでもいい事は、忘れてさ……せっかく元気になった事だし、オレと一緒に来てくれないかな、優太くん?」 そんなやり取りを交わした後、赤黒い炎を纏ったチカが優太の体を大事そうに抱き締めると__またたく間に、赤黒い炎にゴオゴオと包まれていき、優太はチカと共にミスト達一行の前から姿を忽然と消してしまうのだった。

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