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ようこそ、【暗き白銀の世界】へ①

※ ※ ※ 『僕らが住んでる戸宇京には、雪が滅多に降らないから__こんな猛吹雪の一面が雪景色なんて見た事がないよね……』 『こんな場所で、こんな風に遭難しちゃったら__どんな気分になるんだろうね?』 『さあ、ね___それは……そうなった時にしか分からないよ』 光が届かない暗い洞窟内で、両膝を抱えながら孤独からくる不安と寒さからくる恐怖とで一歩も動けない僕はかつて双子の弟の想太との懐かしい会話を思い出していた。 何かのアニメででてたキャラクターが一面の雪山で遭難してしまうというシーン。まさか、自分がそのような目に合うなんて__その時には到底予想出来なかった事で僕と想太は笑い合っていたのを覚えていた。 ちなみに、戸宇京とは__ダイイチキュウにいた時に暮らしていた場所の呼び名だ。 ヒュォォォ………… ビュォォォ…… まるで、何か恐ろしい生き物の咆哮のような不気味な音が、知花から一方的に放り投げられてしまった僕の耳に響き渡る。あれから、知花は当然だといわんばかりに、満面の笑みを浮かべながら恐怖と不安で体をガクガクと震わせる僕をこの白銀の雪に覆われた【世界】に置き去りにした。 仲間と離ればなれにされ、一人きりとなってしまった僕に元友人の彼は、こう言い放ったのだ。 「君らの絆がごっこ遊びじゃなくて、本物だっていうのなら仲間である彼らは君を探しにきてくれるはずじゃないかな。そうじゃなかった、それまでの脆い絆って事だしね。それじゃあ、頑張ってこの試練を乗り越えてね__優太くん。大丈夫、ゲームの主人公だって……映画の主人公だって__こういうピンチを自分の力で乗り越えられるんだから、優太くんだって乗り越えられるよ」 吹雪が体に纏わりつきすぐにでも氷漬けになってしまいそうな強烈な寒さだというのに、赤黒い炎に包まれて余裕そうな笑みを浮かべていた知花は軽快に指をパチンと鳴らす。そして、慌てはためく僕の様子をおちょくるように真っ赤なトカゲの姿に変化してから長い舌をペロリと出して口元を舐めあげると一瞬にして姿を消し去ってしまうのだった。 ※ ※ ※ ぐぅー………… その後、雪山を独りでさ迷い続けた僕は、ぽっかりと穴を開けて、まるで獲物を待ち構えているかの如く存在する洞窟を見つけた。 猛威を奮う吹雪からくる強烈な寒さを少しでも凌ぐために、真っ暗な暗い洞窟内で両膝を抱えながら孤独という状況からくる凄まじい不安と、それと同時に凍える寒さからくる途徹もない恐怖を耐え始めてから――いったいどのくらいの時間がたった頃だろうか___。 ふと、僕のお腹から鳴る音で__またしても自分の身に起きているこの状態を早く何とか解決しなければと危機感を抱く壁にぶち当たってしまう。 (お腹がすいた……僕の所持品なんて__こんな僅かなものしかないのに……) 友人だと思っていた知花から一面白銀のこの【世界】に放り込まれてから食事なんてする余裕はなかった。第一、食事をしようにも__僕の所持品には碌な物がない。 いざという時のために持っていたナイフと、一つしかない包帯__。僅かな水が入った水筒__それに、食料に至ってはカバンの奥底に入れてあったチョコレートが十粒程しかない。 こんな非常事態の時にも、お腹がすくものなのか__と考えてみてもどうしようもない事を心の片隅で思った時だった。 『くぅ、ん__きゅう……ん__』 種族や呼び名はナニかは分からないが、生き物が切なそうに呻いているような、微かな鳴き声が洞窟内のどこからか聞こえてきて気になってしまった僕は、お腹がすいている事も忘れ、得たいの知れない鳴き声に不安を感じつつも何とか勇気を震いたたせると、おそるおそる鳴き声の主の方へと震える足で近づいていく。 このままでは、僕を待ち構えているのは、たった一人きりでお腹をすかせ、大切な仲間にも会えずに【白銀の世界】の洞窟内に閉じ込められてしまうという最悪な未来だけだ。 だったら、どんなに不安と恐怖を抱きつつも一人で立ち上がって進むしか道はない。

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