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雪原と冒険者と懐かしき友と①

「ひ……っ…………!?」 情けないけれど、それしか声が出せずに思わず目を瞑りながら両腕で顔を防ぐ態勢しかとれなかった。 (僕はここで一人ぼっちで____冷たい雪に覆われて凍え死んでしまうんだ……っ……) と、頭の中に愛しい仲間達と過ごした日々や彼らの笑顔が走馬灯のように次々に浮かびあがってきた__まさに、その時だった。 ヒュ………ビュッ…!! 洞窟に吹きすさぶ冷たい風と交じって、聞き覚えのある音が恐怖に震える僕の耳に届く。それは、今まで大切な仲間達と旅をする中でよく耳にしてきた音だ。仲間の一員であるサンの弓矢を放つ音に__とてもよく似ている音だった。 「サン、みんな……っ__」 てっきり、大好きな仲間達と再会出来るんだ__と思い込んでしまった僕はこのような非常事態にも関わらず洞窟内に響き渡るくらいに喜びに満ちた声をあげてしまったけれど__すぐにそれは僕の勘違いだった、と気付いてしまう。 『グォォッ…………!?』 確かに、大ピンチに陥ってしまった僕を救う存在はいた。その証拠に、先程僕を襲ってこようとした【全身が銀色の狼に似た生き物】の群れの片目に弓矢が突き刺さり苦しみに悶えている。しかし、此方に向けて敵意を剥き出しにしているのは変わらない。 ザッ……ザッ____と助走を踏んでいるつもりなのか、後ろ足をしきりに動かしている。その度に、洞窟内にたまった氷の固まりが辺りに散らばる。 もちろん、再び此方に対して攻撃を仕掛けようとしているからだろう。しかし、ふいに群れを赤い瞳が怯えるしか出来ない僕の方から右横へと逸れた。そこには、人が立っていたのだけれど光があまり届かず涙でぼやけているせいで__その人物の容姿がはっきりとは確認出来ない。 けれど、その人物が弓矢を持っているのは分かった。 【…………】 その人物は、何も言わずに震える僕と白銀の狼によく似ている生き物の群れを上の小高くそびえ立つ岩場の足場から見下ろしている。その様子を見て、僕はその人物が仲間であるサンではないのだ、と何となく悟ってしまった。 『まったく、相変わらずどんくさい奴だ……』 もしも、サンだったら僕を見下ろしながら氷みたいに冷たい言葉を言いそうなものなのに__誰だかもしらないその謎の人物は尚も無言で再び弓矢を振り絞る。 しかし____、 「あ、危ない……っ……!!」 その人物の真横から____群れのうちの 何匹かが飛びかかろうとしていた事に気付いた僕は思わず声を張り上げてしまう。しかし、無言のまま微動だにしない彼は心なしか落ち着いているように見える。その様子から、随分と余裕そうな態度だと思い不安を覚えてしまった僕だけれど__その直後、どうして彼が余裕そうに見えたのか理由が分かる出来事が起きたのだ。 【レ・ルーラ__ラ・ルーレ!!】 どこからか、女性のような甲高い声か聞こえてくる。そのリズムからして、魔法の詠唱のような言葉だけれども、ミストの詠唱とは少し違うように聞こえた 慌てて詠唱の言葉が聞こえてきた方向に視線を移す。すると、そこにはダイイチキュウの伝統的な衣装である《着物》の形をモチーフにしているような形のローブを纏った小柄な人物が手に黒く分厚い本を持ちながら弓矢を引き絞ろうとしていた謎の人物に襲いかかろうとしていた【白銀の生き物の群れ】に向かって詠唱を唱えていたのだ。 腰の部分には金色に煌めく太い布を帯のように巻き、紺色の生地に緑、赤、黄色の蝶々が瞬く模様のローブを身に纏ったその人物の顔は深々と被っていて顔を隠している頭巾のせいでよくは見えない。 しかし、それでも__彼らは僕に危害を加えようとしてる訳でない事は分かった。何故なら、黒い本を持っている小柄な人物が魔法詠唱を唱えた瞬間に【狼によく似ている白銀の生き物】の群れ達が宙に浮かび上がって透明な球体に閉じ込められたのだ。まるで、時が止まったかのように__白銀の生き物の群れ達は身動きが取れないようだ。そして、すかさずその球体の弓矢を構えている人物が撃ち落としていく。 そのあまりの手際の良さに、ボーッと見惚れてしまっていた時__、 【おい、早く__そこから離れろ!!】 明らかに呆然としてしまっている僕へ向けて、再び聞き慣れない男の声が少し離れた場所から聞こえてきてハッと我にかえると震える体に鞭うちつつ後退りするのだった。

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