542 / 713

雪原と冒険者と懐かしき友と②

【よし、これでやりやすくなった__ありがとうな……坊や】 いつの間に僕の背後へと迫ってきたのだろうか____。 すぐ背後から若い男の声が聞こえてきたかと思ったその直後、先程からずっと傷付いて悲鳴をあげている《白い小熊みたいな生き物》に戸惑いなど微塵も見せずに、容赦なく腹を目掛けて剣を突き刺した。 『きゅ、う……ん……ぎゃうん……っ……!!』 切なそうに僕の方を一瞥した直後、《白い小熊みたいな生き物》は洞窟内に降り積もっている雪に溶け込むかのように跡形もなく姿を消した。そして、それと同時に僕を怯えさせていた《白銀の狼によく似た生き物の群れ》も今まで存在していたのが嘘だったかのように呆気なく消え去ってしまうのだ。 けれど、ただ単に消え去っただけでない事に僕はようやく気付いた。 《白銀の狼によく似てた生き物の群れ》も《白い小熊みたいな生き物》も__それぞれがいた場所に物を落としてから消え去っていた。 【ホワイト・ベアウルフ__どれどれ、落としたのは……お、やっぱりキナコの言う通りだったな……アイテム的にはレアじゃないし大したもんじゃないな……おい、坊や__この剣やるよ……自分の身くらい自分で守れ】 黒い本を持ちローブを着た人物が、どことなく自慢げな素振りで若い男に向かって頷いた。その様子からキナコと呼ばれた魔法使いらしき人物と剣で《ホワイト・ベアウルフ》を突き刺した若い男とは仲間であるように感じた。 【おい、マッチャ……もう__得物はやっつけたんだ……早く、こっちに来いよ】 【…………】 若い男に言われたマッチャは弓矢を降ろしてから無言で岩場から地面へと降り立った。そして、鋭い目付きで怪訝そうに僕を見つめたものの__やはり、何か言う事はなく辺りに散らばった《ホワイト・ベアウルフ》と《白銀の狼によく似てた生き物の群れ》が落とした物を黙々と拾っていく。 【ほら、坊や__早く受け取れよ……ああ、そうだ__オレの名前はアズキだ……気軽に呼んでくれて構わない】 「あ、ありがとうございます__アズキ……さん……」 その若い男は僕を坊やと呼んでいるけれども年齢的には同い年くらいに思える。容姿で僕と違うところといえば、学生服姿の此方と違って見事な鎧を身に付けていて剣と盾を持ち武装しているところだろう。 少し遠慮がちに《ホワイト・ベアウルフ》が落としていった剣を受け取った僕は思わずアズキの顔をマジマジと見つめてしまった。なんとなく彼は__誠によく似ているような気がしたからだ。しかし、目と目が合って気まずくなってしまった僕はすぐにアズキから目を逸らした。 その後___、 【おーい___そこで隠れてる、もうひとりの坊やも……早くこっちに来いよ……もう得物はやっつけたから大丈夫だぞ】 アズキと名乗った若い男が少し離れている場所にある小高い岩場に向かって声をかけた。その後、警戒心を抱いているせいかゆっくりとした動作で岩場の陰から出てきたのは僕にとって見覚えがあり__尚且つ、意外な人物だった。 「あ、青木……そんな……っ____どうしてこんな場所に……!?」 「それは、こっちの台詞だ……どうして、お前がこんな場所で……しかも、ひとりでいるんだよ?アイツらは、どうしたんだよ?」 その青木の疑問を聞いて、僕は言葉を詰まらせてしまう。いくら、からかわれていた頃に比べて青木との関係が良好になってきたとはいえ、何となく【知花によってこの雪に閉ざされた世界】へ無理やり連れて来られた__とは言いにくいし、何よりもミラージュに飛ばされてから平和に暮らしていた青木や坂本先生をこれ以上僕らの都合で巻き込みたくはなかった。 そうとはいえ、まあ__かなり彼らを巻き込んでしまっている方だとは思う。 しかし__それでも、やっぱり元親友であった知花に無理やり此処へ連れて来られてしまった事に関しては、青木に言いにくかった僕はそれっきり口を閉ざしてしまった。それというのも、ダイイチキュウにいた頃に青木は知花の事を快く思っていなかったからだ。直接、文句や陰口を言ったりしたりはなかったけれど――青木はよく知花の事を鋭い目付きで睨んでいたのを思い出した。 すると____、 【なるほど、どうやらこの坊や達は知り合いみたいだね……とにかく、得物をやっつけた以上__この洞窟に用はない……場所を移動しよう……馴染みの宿屋があるんだ……詳しい話はそこでするといい】 アズキの提案を聞いて、僕や青木__それに彼の仲間の【キナコ】と【マッチャ】もほぼ同時に無言で頷くのだった。

ともだちにシェアしよう!