543 / 713

雪原と新たなる同行者と宿屋の娘と①

【さてと___あまりにも坊や、坊やと呼び続けるのも気が引けるな……坊や達の名前は?】 「あ、えっと……僕は優太です。それで、こっちが……」 「俺は、青木だ。つーか、優太……お前__俺の事をこっちって物扱いしてんじゃねえよ」 あれから、少し時間が経ち__洞窟内から出ようと準備をしていた時の事だった。アズキが僕と青木に尋ねてきたため、未だに緊張しながらも問いに答える。 何で王宮で出会ったシンから保護されていた筈の青木が、坂本先生とゴブリンやオーク達と離ればなれになってしまったか__とか、よりによって何でこんな雪山にいるのか__とか色々と疑問はあるけれども、ずっと一人で雪山に放り出されて閉じ込められてしまったと思い悩むよりは見知った人物が側にいてくれた方が精神的に楽になれるという安堵感に包まれていた方が遥かにマシだし、そんな些細な事など気にしなくてもいいやと思い直した。 【ユータにアオキ……なるほど__これからはそう呼ばさせてもらうよ。何せ……】 と、アズキが何かを言いかけてきた時___、 ドサッ……と僕と青木の目の前に白い防具が落ちてきた。ほぼ同時に、キョトンとした間抜けな表情を浮かべた僕と青木の様を見てアズキが一度は地に降り立ったものの再び真上にある岩場へと登って作業をしていたマッチャの方を見上げる。 【ああ、マッチャ……オレの言う通りにしてくれて、ありがとうな。さあ、これはユータとアオキへの贈り物だ。スノウ・ホワイトウルフの防具。流石に生身のままじゃ宿屋に行くまでの間もきついだろう。ちなみにホワイト・ベアウルフは怪我をしていて悲痛そうだとコチラに思い込ませて油断させ__手下であるスノウ・ホワイトウルフに攻撃させるといった手段を使う……ユータもアオキも覚えておいた方がいい……ん、それはどうしたんだ?】 「え……っ……!?」 アズキの言葉で、ようやく僕は先程のスノウ・ホワイトウルフとの戦い(とはいえ僕は怯えながら身を守る事しか出来なかったが)で右手首に怪我を負っている事に気付いた。先程のホワイト・ベアウルフのようにツツーと血が流れている。 しかし、痛みはさほどでもない。もしかしたら、この寒さのせいで__感覚が麻痺しているせいかもしれない。そんな風に思っていた僕だったけれど、痛みをさほど感じない理由はすぐに分かった。 【チ、デテル……ダイジョブ?】 「ありがとう……えっと__キナコさん」 僕の手が負傷してくれた事に気付いて機転をきかせてくれたアズキが、いつの間にか僕の怪我を回復させるように、とキナコに耳打ちしてくれたらしい。彼女は僕の言葉に対して笑顔は返してくれなかったものの、その代わりといわんばかりに少し恥ずかしそうに首を横に振った。 てっきり、手に持っている黒い本を使って回復してくれるものだと思っていたけれど__キナコから直接手を握られて回復魔法を唱えられたため少しドキドキしてしまった。 もちろん、それは恋愛感情からくるドキドキではなく手を握られた事からくる生理的な緊張だったのだけれども__ふいに、横にいる青木の方から鋭い視線を感じて思わずそちらへと目線を向けてしまった。 まるで、鬼みたいな形相をしている____。 その瞬間、かつて__青木に告白された事を思い出して尚更恥ずかしくなった僕はすぐに彼から目線を逸らした。 (僕は誠が大好きなんだから……変な事を考えてる場合じゃない……それに、もう……青木だって僕の事を何とも思っていない……はず__) モヤモヤした気持ちを抱きつつ、キナコから怪我を回復してもらい準備を整えた僕らは雪の洞窟を後にして《馴染みの宿屋》へと歩いて行くのだった。 洞窟を出た雪原の真上に広がる夜空には、黄金の月が浮かんでいて優しく僕らを照らしていた。 ※ ※ ※

ともだちにシェアしよう!