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白銀世界の宿屋での夜①

ピコンッ………… 僕がカウンターにいる【宿屋の娘】へ1エンドを置いた途端、何処かで聞き覚えがあるようなないような奇妙な音が聞こえてきた。 【はい、確かに5エンドを受け取りました____では、ごゆっくり】 淡々とした表情で笑顔すらない事務的な【宿屋の娘】に見送られながら、僕と青木――それに【アズキ】【キナコ】【マッチャ】の五人は二階に存在するという寝室へと続く古そうな階段へ向かって歩いて行く。 ◆ ◆ ◆ 「___って……もしかして、部屋はアズキさん達と別々なの?」 【宿屋の部屋は狭いんだから仕方ないな……ユウタ__ オレはキナコやマッチャと相談したい事があるんだよ それにユウタとアオキは……ふたりきりになりたいんだろ 】 《4 ××××××× ××××××× 1 》 《4××7》とそれぞれ彫られた扉の前で僕は戸惑いを隠せずに立ち止まってしまった。部屋は、隣接している。 てっきり、アズキ達と共にひとつの部屋に泊まるとばかり思っていたからだ。まあ、それはそれで緊張はするのだけれども青木とふたりきりで泊まるというのは何だか気まずい。 「べ、別に……ふたりきりになりたい訳じゃな……っ……」 【テレるなよ こういうの 向こうでは コイビトドウシって いうんだろ】 「ち、違うってば……っ……!!」 青木は先程から少し離れた場所にいるため、位置的には【アズキ】が僕に対してからかうようにして囁く声は聞こえない筈だ。しかし、それでもやっぱり【アズキ】の勘違いをハッキリと解消させたかった僕は必死で否定する。 【アズキ】が一瞬だけニヤッと笑みを浮かべてから僕の頭をガシガシとやや乱暴に撫でる。 「ん……っ…………!?」 思わず、甲高くて変な声を出してしまった。 【アズキ】が僕の頭に触れた時、体全体にビリッと痺れるような感覚が走った。まるで雷が直接体に落ちたかのような感覚に陥り、暫く体中がビリビリと痺れて動きまでもが麻痺していたけれど少ししてから普通に戻ってホッと胸を撫で下ろした。 (きっと……静電気でもおきたんだろう__) そう思ったものの、まだ僅かに言い知れぬ不安が残っていた僕は手を何度かグーパーさせつつ正常に戻ったか確認した。念のため、両足も動かせるかどうか調べるためにその場で足踏みをしてみた。 その度に、古くなった木の廊下がギシ、ギシと軋む音する。 ついさっきまで感じた痺れはなく、体も問題なく動かせるようになって安心した僕は床の方へ下げていた視線を再び【アズキ】の方へと向けた。すると、【アズキ】とモロに目線が合わさり少し気まずくなってしまう。 とはいえ、おそらく気まずいと思ったのは、すぐさま目線を横へと逸らしてしまった僕だけなのだろうけど___。 僕が【アズキ】と目が合って慌てて目線を横に逸らしてしまったのは、気まずさからくる照れくささだけじゃない。【アズキ】と目があった瞬間、彼の黒い瞳にそのまま吸い込まれてしまいそうだと錯覚してしまい、尚且つ無表情の彼の姿がぐにゃり、と歪んだように見えてしまったせいで不気味さと恐怖を抱いたからだ。 【大丈夫か ユウタ ?】 「え、う……うん____大丈夫だよ」 無表情で、しかしながら何処となく心配そうに此方をジッと見つめてくる【アズキ】に対して僕はドキドキしながら答えた。 「おい、何をさっきから扉の前で突っ立ってんだよ__それと、ユウタ……お前、変な声を出してんじゃねえよ……ほら、行くぞ……」 ぐいっと青木から半ば強引に手を引かれた僕は、そのまま《4 ××××××× ××××××× 1 》と扉に彫られた部屋へ入ろうとする。 部屋へ入る前に視線を感じた僕は青木に連れられながら、チラッとそちらに目をやる。 【アズキ】がこちらを見つめる。 【アズキ】は元の姿に戻っていた。 【アズキ】は無表情だ。

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