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白銀世界の宿屋での夜②
◆ ◆ ◆
「…………」
「…………」
(やっぱり、気まずい……さっきから青木の顔がマトモに見れない……それに____)
二人で宿屋の部屋に入るなり、荷物を下ろして防具を脱いでからホッと一息ついた僕と青木だったけれど互いに無言状態となってしまっていた。
それには、先程【アズキ】から言われた《コイビトドウシ》という言葉も気になっていたのだけれどもそれ以外にも理由がある。
どうにも、青木の機嫌が良くなさそうなのだ。そう思ったのは、青木が宿屋に着く前――つまり、道中で耳をしきりに触っている仕草を見ていたためで彼は僕や誠と共にダイイチキュウの学校に通っていた頃から心の底から不機嫌になると耳を弄る癖があったからだ。
ドスッ__と音が鳴るくらいに乱暴な様子で床に座るのを目の当たりにして、青木がやっぱり何かに対して不機嫌になっているのを確信した僕は遠慮がちになりつつもゆっくりと近付いて隣に座る。
「あ……あのさ、青木――何か怒ってるの?」
「…………別に。お前に対して怒ってる訳じゃねえよ。ただ、その……サカセンのヤツと__此処に来る前に色々と揉めたんだよ……それだけだ、お前には関係ねえから安心しろ」
青木が不機嫌になっている事に対して自分が原因じゃないと分かって安心した反面、サカセンこと坂本先生と揉めたという事に対して不安にもなった。
「坂本先生と揉めたって……喧嘩したの?どんな理由で……!?」
「あ~……シンっていう王宮の変なヤツがいたろ?サカセンのヤツ、俺よりもそいつとばっか話してたり……挙げ句の果てに、そいつの部屋まで行って何か研究とか訳のわかんねえ事ばっかしてやがんだよ……それが無性に気に入らなくてイライラしてたんだ……で、盛大に言い争った直後、この訳のわかんねえ世界に来てたんだ。だから、優太――お前には関係ねえよ」
「か、関係なくなんかないよ……っ……!!」
ハッと気付いた時には、既に部屋中に響き渡るくらいの大声で青木へと言い放ってしまっていた。しかも、無意識の内に呆然とする青木の肩を掴み床に押し倒してしまっていた。
「優太――お前、どうしたんだよ!?」
「ご、ごめん……ちょっと__気分転換してくる。あとさ、青木と坂本先生って……いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「そ、それは……俺とアイツの間での事だろ__誠が大好きなお前には関係ないし、俺も易々と言いたくない」
その言葉を聞いて、僕は青木と坂本先生が単なる生徒と先生の関係から――いつの間にかそれ以上の感情を持つ特別な関係を持った事に改めて気付く。
ぶっきらぼうで不機嫌になりつつも僅かに照れ臭そうな青木を見ていると、またしても無意識の内に沸き上がってくるモヤモヤしたドス黒い感情を必死で押し殺した僕はそれを振り切るように部屋から出て行く。
◆ ◆ ◆
【ナンダカ キゲン ガ ワルソウ__ユータ キミ モ キブン テンカン ?】
「えっ…………!?」
廊下に出た時、ふいに声をかけられてビクッと体を震わせてから振り向くと、そこには【アズキ】の仲間であり魔法使いでもある【キナコ】が立っていて心配そうな顔つきをしつつ僕へと尋ねてくるのだった。
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