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白銀世界の宿屋での夜⑦
ピコンッ____!!
青木の上に跨がりつつ、抵抗する彼の体を押さえながら熱心にマッサージしていた僕だったけれど――ふいに、どこからか音が聞こえてきた事に気付いた。
その奇怪さと懐かしさが織り成している音は、先ほど一面の白い花畑の光景で目にしたように、またしても漫画のコマのように【ミミック坊や】と書いてある吹き出しが空中にゆらゆらと浮かび上がっていて、部屋の片隅にポツンと置かれている宝箱から聞こえてきたようだった。
『ドッカァァァン …… ……さあ、迷える汝よ ……
…… お主 の 望むもの を 申せ 。 そうじゃな 、
今 の お主ら に とっておきのもの を 与えて やること も可能じゃ 。さあ 、 みっつ 申してみるがいい !! 』
宝箱と下半身が同化している少年__いや、正確には主と判断した人物が欲しいと願うものを与える魔物である【ミミック坊や】が宝箱の中から勢いよく出て来た。そして、青木に跨がる僕を見るや否や__照れくさがっているのか顔を真っ赤にして両手で顔全体を覆いながら言ってくる。どうやら、【ミミック坊や】は僕を主だと判断してくれたらしい。
黄金色の両手で顔を覆いながらも、目だけはチラチラと青木を組み敷きながら彼の体を愛撫する僕を見つめてくる【ミミック坊や】を見てクスッと微笑みかけると悩む事なく今一番欲しいものを伝えるために口を開く。
既に、【ミミック坊や】に願うものが何かなんて思い付いていた。
《冷凍スライム》__かつて、青木以外の誰かに使用したような覚えがあるものの、それが誰かはすっかり失念していた。思い出そうとすればする程に、モザイクがかかった感覚がしてボンヤリとしか思い出せない。名前どころか、顔すら分からないその相手よりも――僕の心は真下にいてギロッと鋭い目付きで睨み付けながら尚も抵抗してくる青木の事しか頭にないのだ。
「う~ん……冷凍スライムだけじゃなあ__彼を満足させられないかも……ねえ、ミミック坊や__何かいい物は他にない?」
『 よし 、よし …… ……そんな 迷える お主 に ひとつめ の もの を 与えてやろう __さあ 、 これ を 見てみて 他 の もの を 決めると よい !!』
バサッ____
と、宝箱の中から分厚い何か本のようなものが勢いよく飛び出して僕はそれを慌ててキャッチする。
青木は、未だに――僕を厳しい目付きで睨んでくるのだった。
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