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◆傍観者達は何を見るか①◆
※ ※ ※
所かわって____。
誠、引田(ライムス)――ミストとサンはとある研究室にて全員が全員、眉を潜めながら波打つ透明な水の球体に釘付けとなっていた。
傍らには、眠りについた黒いランドセルを担いだ少女__もとい、ドクターCの忠実なるミン魚のメイド【マ・ア】がスヤスヤと眠っている。そして、そんな彼女をドクターCが父親のように優しく見守っているのだ。
「おい、ミスト__結局、ユウタは何処にいるのだ?」
「わ、分からないよ……ユウタのことを探そうとすればするほどミストの水魔法が渦巻いて邪魔するんだ。今まで、こんなこと――なかったのに……あ、でも__待って。ユウタと……誰かの声がする……この声、どっかで――」
「ん、ちょっと待って。この声、青木の声じゃないか。ぼくと誠の__それに優太くんのクラスメイトだった奴だよ……ってことは――優太くんは青木とどこかで一緒ってこと?というか、何で……青木がこのミラージュにいるわけ?」
誠は元クラスメイトである青木がダイイチキュウからミラージュにいる理由について簡単に引田へと説明した。それでも、訳が分からないといわんばかりの引田だったけれど、とりあえずは納得したようだ。因みに、元教師であるサカセンこと坂本先生がこのミラージュに連れて来られてオークやゴブリンと共生していた件についてもザッとだが説明した。そして、それとほぼ同時にミストやサンも青木がシリカの命令で自分達が襲撃した村にいた人間の一人だということをようやく思い出したようだった。
「え、でも__アオキとかいう人間は……シン様によって保護されてる筈――。じゃあ、ユウタとアオキとかいう人間__それにもう一人の人間の男も結界が張られた王宮にいるってことだよね?どれ、どれ……ちょっと王宮の様子を――」
ミストが訝しげな表情を浮かべつつ、手に持った杖を空中に浮かぶ水球へと振りかざす。すると、今度は激しい渦巻きは消えて全体に王宮の様子がハッキリと映し出される。
ミストが杖を素早く振りかざす度に、どんどんと王宮の部屋の様子が代わりがわりに映し出されていくが――全部の部屋が蝋に覆い尽くされたかのように様変わりしている。
かつて、引田(ライムス)以外の面々は王宮内部にいたことがあるものの、その時の豪華絢爛さは全くなく、シリカがふんぞり返りながら誇らしげに座っていた黄金金の玉座も、真っ赤な絨毯が敷かれていた長い廊下も、囚われの身となっていた薄暗い地下室も――全てが白い蝋に覆い尽くされて飲み込まれてしまっているのだ。
「えっ____シ、シン様!?それに……護衛の者達、サカセンとかいう……人間まで……っ……」
ふと、ミストが何かを見つけてしまった。
白い蝋に覆い尽くされ、恐怖に怯える表情を浮かべたままそれに飲み込まれ固まってしまった王宮の者達の哀れなる姿____。
何者かによって襲われてしまったのは、その表情からしてすぐに理解出来た。そして、誠にはそんなふざけたことをする人物が誰かなど__既に分かりきっていた。
(知花だ……こんなふざけたことをするのは……アイツしか……っ____くそ、アイツがこんなに残酷な奴だったなんて……)
と、誠が心の中で舌打ちするや否や――ミストが出現させた水球に異変が起きた。魔法を操るミストの意思にお構い無しに、勢いよく飛び散ってしまったのだ。
その途端に、その場に崩れ落ちるミスト____。
顔色が真っ青になり、普段から白い肌が余計に青白くなっていて、尚且つ――余程寒いのか、歯をカチカチといわせながら身を激しく震わせている。パッと見ると、恐怖に怯えているようにも見える。
「ご、ごめん……っ____もう、無理……ミストにはユウタを探す手掛かりを見つけるのは……無理……っ……ごめん、ごめん……」
涙を流しつつ、恐怖に怯えるミストに強制するのは胸が痛む。しかし、そうとはいえ__誠には優太を探す手掛かりなど見当もつかない。
どうしたものか、と――辺りを見渡した誠の目にドクターCがおそらく普段から使っているであろうボロそうな《パソコンらしき物体》が飛び込んできたのだった。
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