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◆傍観者達は何を見るか④◆
◆ ◆ ◆
「お前達、いったいどこに行ってたんだ?この喧しい奴らをどうにかしてくれないか?こんなに騒がしいと、優太の探索に集中できないんだ」
誠は、相変わらず画面に釘付けとなったまま周りで騒ぐシリカと真っ白い兎のように身を縮こまらせながらシリカから逃げているホワリンに対してウンザリした様子を露にしつつ戻ってきたサンと引田へと言った。
「シリカ様__?それに、元イビルアイのホワリンと呼ばれてた魔生物が……なぜ、ここに!?」
「シリカ……ああ、王宮で甘やかされて育った第二王子様か。確かに、どうしてここにいるの?いつの間にか、ぼくらの側から消えてどこかに行ってたよね?」
引田は研究室から戻ってくるなり、親しげにサンに抱きついてきたシリカをジトーッとした目付きで見つめつつ尋ねる。
「それについては、わいが簡単に説明するとしようか。彼らは、マ・アの見る夢によってこの場に引き寄せられたんや。そして、マ・アが見る夢によって彼らを引き寄せたということは……おそらく、彼らが優太くんという少年をを救う鍵なる筈や。ここに導かれたいうんは、何か理由があるということやきな」
空中で飛び周りながら第二王子である少年から逃げるホワリンと、それを執拗に追いかけるシリカに好奇の視線と疑心の視線とが一斉に集中する。
「うーん、シリカ様とホワリンがどうしてここに導かれたかはともかくとしても、問題はどうして彼らがここに導かれたことがユウタを救う鍵となるのか__ってことだよね……何か、意味がある……意味が__」
と、ミストが頭を抱えつつ悩んでいた時に何か閃いたサンが周りのことなどお構い無しにはしゃいでいるシリカと心の底から鬱陶しそうに逃げているホワリンへと歩み寄っていく。
そして、辺りを騒がしく飛びまわるホワリンの赤黒い羽をガッと掴むと背中に存在する《イビルアイの赤い一つ目》をマジマジと見つめる。
「おい、貴様のこの赤い目は何のためについている?」
「はあ?な、何なんだよ__おめえらと別れてから王宮で優雅に寛いでいたオレを訳の分からない場所に連れてきたかと思えば……いきなり訳の分からねえことを言いやがって!!」
「いいから、おとなしく答えろ。この赤い目は何をするために、ついているのだと先ほどから聞いている」
あくまで、しらばっくれようとしてるホワリンをジロリと睨み付けつつサンは低い声で問い続けた。すると、ホワリンがお手上げだ__といわんばかりに軽くため息をついた後でその問いに答える。
「イビルアイだった時のオレの能力は、ミラージュ世界のあらゆるものを探索する魔力を持っていた。だけどよ、美々を救えなかった事とあいつの想い人だった安達夢々を救えなかったことで、この能力も衰えて使いものにならなくっちまったんだよ。夢も希望も――ふたつもいっぺんに失っちまった。だから、オレはもう……おめえらにとっては役立つにすぎねえ」
「おい、悲劇の魔生物っぷりを気取るのもいい加減にしろ。それより、元の魔力を駆使して__我らの仲間であるユウタを探すのに協力してくれ。貴様に希望や夢がないだと?お前を必要としてくれるシリカ様が側にいるのに何を寝ぼけた言葉を言っているのだ?」
サンのぶっきらぼうながらも真剣な態度を露にしながら言ってくる言葉を聞いたホワリンは無邪気に微笑みかけてくるシリカをチラッと見つめる。そして、仕方がないといわんばかりに一度、背中の赤目を閉じた後で再び目を開く。
元々、赤い背中の一つ目が更に濃い色に変化していた。
「言っておくけどな、うまくいくかは分かんねえぜ?あとあと、文句言うんじゃねえぞ?」
元イビルアイの言葉を聞いて、誠を含む一行は同時にコクリと頷いた。
そして____、
「あっ、あれ___ユウタじゃない……って、ちょっと、ちょっとユウタがマコトじゃないニンゲンの男の上に乗っかって……ナニかしようとしてるよ。これって、どういうこと!?」
「しかも、このニンゲンの声__先ほど我らが聞いたアオキのものではないか。ますます意味が分からん。しかも、これでは未だにユウタがどこにいるのか明確には分からないではないか」
「え……っと、青木と優太くんのことはひとまず置いておいて、ここってさ……きっと、どこかの部屋の中だよね。しかも、この部屋の窓の外を見ると__真っ白になって凄く曇ってる。窓が曇ってるって事は外は物凄く寒いんじゃない?ミスト、それにサン……ミラージュで雪が大量に降る場所ってどこか心当たりはある?」
ホワリンが背中にある赤目の白い壁に向かってかざした途端に映し出された優太と青木の映像を見て、それぞれが様々な反応をした。ミストは興味津々になっていたし、サンは眉間に皺を寄せつつ余り成果が出せなかった事を悔やんでいた。
そんな中、引田はといえば青木の上に乗っかっている優太を見てから少し気まずそうに隣にいる誠へチラッと目線を向けつつも心の片隅では冷静さを保ちながらサンとミストへと尋ねるのだった。
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